我が一族の秘伝魔法を伝授しよう!〜父親曰く、一族の秘伝魔法は【ささくれを治す魔法】らしい〜

七篠樫宮

どうやら、俺の一族には秘伝の魔法があるらしい話

 どうやら、俺の一族には秘伝の魔法があるらしい。


「よし、これより秘伝習得の儀を始める。覚悟はできたか? 今ならまだ引き返せるぞ。魔法使いの一族ではなく、一般人としての暮らしだって送れるだろう」


 修行の開始は俺が3歳の時だった。魔力の感知技術と操作技術を徹底的に叩き込まれた。

 

 あれから十二年。

 今日、一族秘伝の魔法を習得し、俺は本物の魔法使いになる。


「親父。覚悟なんざにできている。俺は宮廷魔法使いのアンタを超えて、最強の魔法使いになると決めたんだ」


 親父は口下手だ。

 宮廷では『静寂の魔法使い』と呼ばれているらしい。


「長い前口上なんて俺と親父には似合わない。サッサと始めようぜ」


 俺の言葉に親父はフッ……と意味深な笑みを浮かべた。

 我が親ながら、胡散臭い。


「そうだ、そうだったな。私が祖父より魔法を継いだ時も、今のお前のようであったよ。

 ――では始めよう、右手を出してくれ」


 親父に言われた通りに右手を出す。

 俺の手に、親父が杖を向ける。


「(あぁ、ようやくだ。ようやく俺は魔法使いになれる)」


「む、指にができているではないか」


「あ? んなこと今はいいだろ」


「いやいや、重要だとも。雰囲気というモノは大事だし、ささくれによって秘伝習得に悪い影響がでる可能性も否定はできまい」


 確かに俺の指のささくれのせいで魔法習得をミスったら……って、そんな事あってたまるか!


「はあ? その程度で影響が出るわけないだろ。それとも左手に変えるか?」


「ふむ。いや、そのまま右手を出したまえ。治してやる」


 なんだよ、水を差しやがって――は? いま何つった?


「(ささくれを治すだと??)」


 親父が魔力を杖の先に集めているのを感知する。


「(親父は魔法を使ってささくれを治そうとしている)」


 杖の先から魔力が解き放たれ、俺の右手にできたささくれが治っていく。


「よし、どうだ?」


 右手を動かす。違和感はない。

 ささくれ特有の痛痒さも一切が感じ取れない。


「……幻術の一種か?」


「いや。ちゃんとした治療魔法さ」


 あり得ない。


 魔法は武器。

 基本的に魔法は攻撃性のものしか存在しない。


「治療系の魔法なんて、聞いたことねーぞ」


「だろうな。私も私以外で見たことあるのは一人だけだ」


「一人?」


「そうだ。なにせ、この魔法は私達の一族の秘伝魔法なのだから。習得者は私と今は亡き祖父だけだ」


「は? 一族秘伝の魔法が治療魔法なのか??」


 おいおいマジかよ。

 もっと【マグマの雨を降らせる魔法】だとか、【雷を昇らせる魔法】だとか、カッコいいのを想像してたんだが、まさかの治療魔法使いヒーラーかよ。


「……まあいいか。治療魔法だったら幾らでも仕事があんだろ」


 俺のささくれを治したのも親父なりのパフォーマンスって事か。


「他の使い方も教えてくれよ。今味わったささくれを治す使い方しか習得できてねーよ」


 親父曰く、俺の魔力感知は歴代でも随一らしい。

 そんな俺でもあの一瞬の魔法行使じゃ習得まではできない。


「ないぞ」


「?」


「お前に使ったのが秘伝の全てだ」


「は?」


「我が一族の初代。偉大なる賢者ササクーレ・イタインダーが生み出した世界唯一の治療系魔法【ささくれを完璧に治す魔法】。

 歴代継承者が応用魔法を生み出そうと励んだが、初代の魔法が完璧すぎて誰一人としてささくれを治す以外の使い方を編み出すことはできなかった」


 何だそのフザケタ魔法は。


「……つまりなんだ。俺はささくれ治療系魔法使いだということか?」


「そうなるな」


「……でもおかしいだろ。そんな魔法でどうやって親父は宮廷魔法使いになったんだ?」


「ん? 私か。私は自力で【真空を生み出す魔法】を編み出したからな。無詠唱を行える魔法使いは希少だし、そもそも真空状態で人は生きれない。それ故の『静寂の魔法使い』という称号だ」


『静寂の魔法使い』って親父が口下手だからじゃなかったのか……ではなく!


「俺にその強すぎる魔法を教えろよ!」


「嫌だ」


「嫌だ!?」


「この魔法は私の人生そのもの。お前に扱える魔法ではない」


「で、でも! このままだと『賢者の一族なのにささくれ治療魔法しか使えないとか笑』ってなるぞ!」


「それは歴代継承者の誰もが通った道だ。私の魔法が羨ましいのなら、お前も魔法を作ればいい」


 なんてヤツだ……!


「あと、言い忘れていたがお前の王都魔法学園入学が決まった。来月までに表向きの魔法を編み出しておけ。賢者の一族はあらゆる魔法を使うことができるとされている。どんな魔法でも構わないが、賢者の名を落とさないようにな」


 開いた口が塞がらない。


「フフ、私の父もこのような気持ちだったのか」


 何笑ってやがるこのクソ親父めッ……!


「まあ、一つアドバイスをしよう。お前が語った『最強の魔法使い』になるという夢、それは初代賢者を超えるという事に他ならない。

 初代の秘伝魔法を継承して最強になる? 笑わせるな。最強とは誰かの道を辿って至れるようなモノではない」


 ――そうか。


「全てを踏み台にしろ。初代ささくれ静寂も、全てを糧に道を拓け」


「……やってやるよ」


 魔法学園だったか?

 そこに通うヤツらも俺と同じで各々の秘伝魔法を持ってるんだろ?


「全部俺のモンにしてやる……! そして、俺だけの窮極の魔法を編み出してやる……!」


 ――だから待ってろ。

 俺の目の前で愉悦しニヤけてる親父テメェもすぐに超えてやるよ。













 



 

*――*――*


 どうやら、の一族には秘伝の魔法が存在するらしい。


「よし! これから一族秘伝の習得の儀を始める!」


 僕の前に立つ、尊敬しているお父様。

 ――偉大なる賢者の再来。

 ――世界初の一般治療魔法を編み出した聖者。

 ――王国最強の魔法使い

 二つ名を『万魔の大賢者』。


 お父様曰く、これから習得する秘伝の魔法は、お父様を最強の座へと至らせた始まりの魔法らしい。


 いったいどんな魔法なのか。

 お父様の父親が使っていたという【真空を生み出す魔法】か。

 敵国を文字通り傾国した【土地を覆す魔法】か。


「んじゃ、右手を出してくれ」


 ああ、楽しみだ。


「――ん? なんだ、ができてるじゃないか」


 ――僕は、あなた最強の魔法使いのようになれますか?

 

 


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我が一族の秘伝魔法を伝授しよう!〜父親曰く、一族の秘伝魔法は【ささくれを治す魔法】らしい〜 七篠樫宮 @kashimiya_maverick

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