山奥の一室で狗神はなく
与野高校文芸部
山奥の一室で狗神はなく
ねえ、言ったよね……? いつまでも愛してくれるって……。
ねえ……。
「ねえねえ、肝試し行かない?」
隣でスマホの画面をこちらに向けてくる。
「……急にどうしたの?」
「なんかこの街、結構出る山があるんだって!」
「えー!! 面白そう!!
ここは少し田舎の中学校。教室は40人くらい入りそうな広さだが、在籍している人数は24人。そして、この二人は私の友達。肝試しに誘ってきたのは
「はあ……わかったよ……」
またニヤニヤした顔で見て……。
「とうちゃーく! ここが例の山だよ! 別名、狗神の山、って言われてるんだって」
「なんで犬?」
「なんか昔、殺処分された犬の死体をここに埋めてたらしいよ」
なにそれ物騒……。
「なにそれ!! めっちゃ面白そうじゃん!! 早く行こー!!」
「いや、面白くは……って、先に行かないで柚乃! 紗奈、早く追いかけるよ!」
「はいはーい」
暫く歩いていると霧が濃くなってきた。最初はあんなにうるさかった柚乃も黙るくらい、この山は怖い。
「ねえ紗奈、もう帰ろうよ……。柚乃も黙っちゃったし……」
「ね、ねえ怜奈……。柚乃、どこ行ったの……?」
え……さっきまで隣にいたはずじゃ……。居ない……?!
「なんで……? 柚乃、迷子になったとか? 探しに行かないと、紗奈……! ……紗奈?」
紗奈も、居なくなってる……。なんで……? 霧が濃いから? はぐれただけ? ……なにか、聞こえる!
≪キエエエエ!!≫
少し掠れた叫び声が聞こえた。逃げなきゃ……!
「はあ、はあ、ここまでくれば、大丈夫で、しょ……」
とりあえず、状況を確認しなきゃ。最初に柚乃が居なくなって、次に紗奈が居なくなった。そしてあの声みたいなもの……。間違いなく出たな……。二人を助けたいけど、どこに居るかも分かんないし、生きてるかどうかすらも分からない。ここは一度退散をして、大人も連れて明日の昼間にいこう……。
「なんでっ……!? 紗奈と柚乃! どうして分からないの……?」
次の日、色々な人に昨日のことを話した。だけど皆、そんな名前は知らないと言う。紗奈と柚乃の家にも行った。でもダメだった。誰も二人のことを覚えていない……。
なんで、とうわ言のように呟いていたら、自分の家に着いた。仕方がない。一人で行くしか……。
「なに、これ……」
家に入ると、何かの部屋みたいな構造だった。家具はないし、キッチンや他の部屋もない。何も置かれていない一つの広い部屋。床も天井もボロボロで、何かが暴れた後みたいな感じがした。絶対やばい……!
≪キエエエエ!!≫
そう思った時にはもう遅かった。出口と思われる所には、昨日聞こえた掠れた声を発しながら立っている影があった。瞬きの間に、私の首と胴は泣き別れになってしまった。最期に、掠れた声で
≪オレラヲコロシタ……ミナゴロシダ≫
と聞こえた。
『今日のニュースです。一つの街が突如、人一人も残さず消えてしまいました。次のニュースは……』
「街が突然消えたんだってー。やばくない?」
「ほんとだ。人が一人もいなくなってるって、ウケるんだけど」
「まじそれな。あ、なんか隣街にかわいい山あるから行こうよ」
「どんな山?」
「別名、狗神の山、だって」
* * *
僕はずっと幸せの中にいた。暖かい寝床、暖かいご飯、愛がある家族。寝て過ごす毎日は夢みたいに素敵だった。なのに、雨の降る夜、珍しく散歩に出かけたら、何かの箱に入れられて、気づいたら飼い主はそこにいなかった。しばらく過ごしていたら僕のことを拾ってくれる人がいた。今までの飼い主とは違うにおいがしたけど。僕が連れてこられたのは何もない部屋だった。部屋に入れられたら自分と同じ『犬』がたくさんいた。絶望の顔をしていたり、涙を流していたり、色々な『犬』がいた。ここで何があるのか、理解したくない頭で近くの『犬』に尋ねる。
「ねえ、ここはどこ……? いつお迎えが来るの……?」
「……ここが開くことはもうないさ。ここにいるみんな、死んでしまうのさ」
絶望の顔をしたその目に、光が宿ってないことに気づいた。これは、嘘じゃない……。
「そのうち、毒ガスが部屋を満たして、死んでいくのさ」
かすかに甘い匂いがした後、薄れゆく意識を完全に手放した。
次に意識が戻った時、僕は見知らぬ土地にいた。安らぎの天国でも、灼熱の地獄でもない不思議な場所。本当は天国に安らぎは無くて、地獄は灼熱じゃなかったのか。それよりも、ここはどこなんだろう。こんなに壁がバキバキに割れているなんて……。
そこにきて、自分の目線が高いことに気づいた。少しではなくかなり高い。体をよく見てみると、190cm以上あり、飼い主と同じ顔の構造をしていることに気づく。これってもしかして、『ニンゲン』か……? じゃあこのバキバキに割れた壁。まさか……! 壁の奥を覗くように見てみると、そこはさっきまで自分が殺されそうになった、あの部屋だった。僕がやったのか……? よく見ると床には赤いドロッとしたエキタイが……。……でも、不思議と感情は特に湧いてこなかった。それよりもアイツ等を■したい。頭にノイズが走り、知らない感情が流れてくる。そこは越えちゃいけないとわかっているのに……! …………そんなこと、もうどうでもいいや。いつも発していた鳴き声を発する。求めていた声とは別の、少し掠れた叫び声が耳に入る。その目に
≪キエエエエ!!≫
山奥の一室で狗神はなく 与野高校文芸部 @yonokoubungeibu
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