KAC20244 幼馴染みと私

久遠 れんり

ささくれる心

 土屋 亮つちや りょう

 今彼であり、幼馴染み。


「今日こそは、取り返す」

 そう言って彼は、私の財布から、お金を抜いていく。


 高校を卒業をするまでは、真面目だった。

 いえ。大学二年までは普通だった。

 優しくて、昔と変わることなく愛してくれた。


 それが、いつだろう。

 開運何とか研究会というサークルに入った。

 断り切れず入ったらしい。



 ――亮と私は、小学校の四年からの付き合い。


 転入してきた私。なかなか上手く打ち解けられず。

 友達も、なかなか出来なかった。


 休み時間。一人で行くのが怖くて、トイレを我慢した。

 四年生にもなってと、思うかもしれないが。私は慣れないところで無防備な姿をさらすと言うのが怖かった。


 そして、授業中。

 我慢が出来なくて、先生にお願いをする。

「今回は良いけれど、きちんと休み時間に済ませなさい」

 多分、この一言の、小言がなければ間に合っていた。

 どこからか、聞こえる笑い声。


 真っ赤になりながら、トイレに急ぐ。

 だが、渡り廊下を渡り、わざわざ人の少ない専門棟へ。


 この学校には、音楽室や図書室。理科実験室などの教室が集まった建物があった。


 私はそこで、トイレに座る。


 だが、座る前に、安堵したせいで力が抜けたのか、出始めた。

「あっ駄目。駄目なのに」

 ちょっとした惨劇。


 足にも伝ってきて、汚してしまった。


 すぐに、チャイムは鳴り、授業は終わった。

 すると、聞こえてくる足音。


「なあにこれ。うわ、きったな。やだあ踏んじゃった」

「ちょっと開けなさいよ。いるんでしょ」

 ドアを叩かれる。

 でも、どうしていいのか、わからない

 

「何騒いでいるんだよ。そこは図書館なんだ騒ぐな」

 男の子。――いやだ。揶揄われる。


 前の学校でも同じ失敗をして事がある。

 一年生の時。

 あの時も怖くて、トイレに行けず。教室で漏らした。

 転校するまで、影であだ名として、ずっと言われた。


「えっ。土屋君。でも見てよ。漏らしたんだよ」

「漏らしたなら、困っているんじゃないのか?」

 そう言って、彼の足音が、近付いてくる。


「とりあえず、出てきてくれ。下着とかが汚れたのなら、保健室に予備があるはずだ」

 目をつぶり、ドアを開ける。


 パンツは膝。

 濡れたので、どうしようもなかった。

「俺は便器の方を掃除するから。ほら、女子見てやれ。お前達だって、いつ漏らすかわからないだろ」

「えー」

 そう言って囲んでいた輪が広がるだけ。


「ええとお前。すぐ近くに引っ越してきた子だな」

 そう聞かれて、集団登校の時にいる子だとわかった。

 その後で、同じクラスだという事もわかったが。


 考えていると、いきなりパンツを脱がされた。

「ほら足。靴下も脱げ」

 そう言って。


 スカートだし、女子トイレだから良いけれど、スースーする状態で立たされる。

 そして彼は、躊躇無く手洗いで下着と靴下を洗い始めた。


 固く絞って足を拭く。

 また洗う。すっかりおしぼり扱い。


「ぼーっと見ているなら、保健の先生呼んで、予備の下着を貰ってこい。もう拭いたから」

 それを聞いて、近くの子が走って行く。


 パンツと一緒に先生も来た。

「汚したのね。足とかは、お股は?」

「君がやってくれたの」

「ええ、まあ。妹がいるんで、慣れてます」

「ありがとう。後は先生がするから」


 なんてことがあってから、休み時間のたびにトイレは大丈夫かなんて聞かれて、まあそのおかげで友達も出来たし、毎日帰りに亮の家に行って。


 妹の凜ちゃんも受験か。


 むくっと起き上がり、考える。


「パチンコってすごいぜ。三千円が三万になった」

「何? パチンコなんかに行ったの?」

「サークルの奴が開運札とか言うのを見つけたんだよ。これを持って……」

 でも、そんなラッキーは最初だけ。


 バイトもせずに、パチンコに行っていて、今度は競馬。

 オートレース。

 競艇。


 カードを作って、突っ込んで。

 転がるのは早かった。


「おじさん達に、言わなくて良いの?」

「――絶対言うな」それが亮の言葉。


 ああ、心がてくる。


 そんなある日。

「勝ったの?」

「勝ってたら、こんな時間に帰ってこない。――それでなあ。怒らないから、ちょっとだけ他の男とエッチしないか?」


「はあっ?」

 自分でも、どこから出したのかわからない声が出た。

 怒らないから? えっ、おかしくない。


「頼む。もう金を受け取ったし、外にいるんだ」


 目が眩む。いきなり世界が暗くなる。

 コイツハ、ナニヲイッタ?

 少し放心をしている間に、亮は私が肯定をしたと思ったのか、ドアへ向かう。


 何か話をしている。

 その男がお金を渡す。

 亮は嬉しそうに愛想笑いをしながら、部屋から出て行った。

 後ろ手に鍵をかけた彼。


 知っている。

 見たことがある。

 彼が私を買った?

 一体、私は幾らなの?


 ささくれを過ぎ、私の心は、この時確かに血でも流していた。

 ふわふわして、何も考えられない。


 そして彼は近寄り、抱きしめて優しくキスをする。


「香坂さん。こんな形でごめん。あいつは駄目だ。奴から逃げろ。本気で君を食い物にする気だ」

 そう言って、彼が見せてくれたのは下着姿の私。

『援助お願いします。』と下に書いてある。

 そんな画面。


「なにこれ?」

「何でも良い。この番号が奴の電話番号だということだ、売りまでしても、奴はもうだめだ。絶対こっちを見ない。逃げるしかない。荷物は?」


 彼に言われるまま、私は私物を詰め。部屋を後にする。


 私の家だとまずいから、彼の家へ行く。

 途中で警察へより事情を説明。だけど悪質ないたずらだと言われ、あてには出来ない。遠慮など要らない。彼の家にも、もう連絡をする。

 ああ、私の家にも連絡。これから先、連絡先を聞かれても教えないように。


 横で付いていてくれた彼は、ゼミで一緒の結城ゆうき君。


 あっ。名字だけ。名前を知らない。


 私は、お風呂から上がり、体を拭くと、何もつけずに。彼の横へ行く。

「する? 売りなんかしていない。あいつとはしていたけれど、それがいやじゃなければ」

 そう言うと彼は、いったん顔を伏せる。

 顔を上げると、丁度目の前が私の腰だったせいか、また目を伏せる。


「香坂さん。僕は、結城聖人ゆうき きよと。一緒のゼミだから知っているよね。知らないならショックだけど仕方が無い」

 そう言いながらも、何か隠す物を探しているのか?

 ジャケットが、すぐ横にあった様で、掛けてくれる。


 そして掛けながら、口説いてくれる。

「僕は最初見たときから、君が気にいった、いわゆる一目惚れだ。でも横にはあいつがいた。君が幸せそうだったから ……僕は諦めた」

「諦めた? 諦めていないわよね。諦めたなら今こうしていない。素直になって。私は抱いてくれるなら嬉しいの。今、心がちょっとぐちゃぐちゃで、それを…… 癒やして」

 そう言いながら、なぜか涙が、今頃になってあふれてくる。

 緊張から冷めたのか、体が震える。

 怖かった。そう、きっと。

 体を売れ? そんなことを言う亮が。

 ――昨日まで、非現実的だったこと。


 でも、頑張って、笑顔でなんとかそう言う。すると彼は、私をなんとか抱っこする。


「わかった。上書きをする。朝まで掛かるぞ」

「大丈夫?」

「ああ、待ち望んだ君が、受け入れてくれるんだ。死んでも頑張る」

「せっかく知りあったのに、死なれると困るわ。ゆっくり癒やして」

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