あなたで保湿。
夕藤さわな
第1話
ささくれの最も大きな原因は乾燥なんですって。
あとは栄養不足。
ささくれができても無理矢理に
私もやってしまってね。そのせいでもっと傷口が広がって、膿んで……ほら、こんなにもぐちゃぐちゃ。ダメね、後悔するってわかっているのについついやってしまうの。見て見ぬふりをすればいいのに、ついつい気になって見てしまう。
ささくれを治すには自分を労わるのが一番。保湿して、必要な栄養を取って、自分を大事に大事に、何よりも大事に労わるの。
ささくれに良い食材はレバーやかぼちゃ、ナッツ。
レバーには肌の新陳代謝を促すビタミンAとビタミンB2が、かぼちゃやナッツにはビタミンEが。亜鉛も大切なのだけれど……そういえば亜鉛って血に含まれていたかしら。
何にせよ、そうして自分を労わってささくれが治るのをじっと待つの。
手にはハンドクリーム。
夜は特に保湿力の高い物を塗り込んでいく。ねっとりとしたハンドクリームを丁寧に塗り込んでいく。
心にはあなた。あなたのねっとりとした血と脂。
あなたを私から奪おうとしたあの人はとっくに生ゴミとして捨ててしまった。もう、あなたを奪われる心配はない。
あなたの時間は私の手で、私の中に、永遠に閉じ込めた。
だから、もう大丈夫。だから、もう安心。きっと保湿力も高いはず。
どうかしら?
ハンドモデルのようにポーズを取ってあなたに尋ねる。湯船の中のあなたに。
少しはしっとりとしたと思うのだけれど。
私の肌も。あなたに裏切られてささくれだった私の心も。
湯船の中のあなたから答えは返ってこない。
でも、いいの。答えなんてなくたって構わない。言葉なんてなくたって構わない。
血と脂でねっとりとした湯船に頭から浸かっているあなたに、微笑みかける。
「あなたのせいでささくれだってしまったんですもの」
あなたに責任を取ってもらわなくちゃ。
ねえ、そうでしょう?
あなたで保湿。 夕藤さわな @sawana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます