異世界人「うわぁ!テレビのなかに人が入っている!」
春海水亭
よくある話
「うわぁ!テレビの中に人が入っている!」
異世界から現代日本へとやって来て、昨日から我が家で暮らすことになったエルフの女騎士が我が家の薄型テレビを指さしてそう言った。異世界から現代日本にやって来て我が家で暮らすことになった経緯に関しては、適当なフィクション作品を想像していただきたい。大体それと同じだ。
「テレビって言うのはそういうもんなんだよ」
俺の作戦通りだった。
タイムスリップであるとか異世界転移であるとかで、テレビやパソコンのモニターに映し出された人に対して、来訪者が「箱の中に人が入っている!」と驚くことはフィクションではよくあることだが、実際に俺の元にエルフの女騎士がいるとなれば、ぜひともやりたいと思い、テレビのタイマー機能で自動的に再生するようにしておいたのである。
それにしても実際に見てみるとなんとも愉快なことだ、やっぱり来訪者には現代日本の文化に驚いてもらわなければな。
このように薄っぺらなテレビでは人どころか小動物も――そこまで考えて、俺はふと気づく。
テレビの中に人が入っている?
テレビを知らないからテレビという謎の箱の中に人が入っているように見えて、驚いてしまう。それならばわかる。だが、テレビという言葉を知っているのならば、そんなに驚くことはないだろう。あるいは異世界の言語ではテレビが箱という意味なのだろうか、いや、翻訳魔法とやらでエルフの女騎士とは日本語がバリバリに通じている。そんな中途半端な翻訳ミスが起きるだろうか。
「早く来てくれ右でも左でもない普通の日本人!」
「あんまヤバいプロフィールの奴みたいな呼び方するなよ」
動揺するエルフの女騎士(遊戯王にこういうカードがあったな)の呼びかけに応じて、テレビの前で腰を抜かす彼女の元に早足で向かう。
「ギャホホホ!!!テレビの中に人を監禁するのは楽しいなぁ!!!」
「うわああああああ!!!!テレビの中に人が入っている!!!」
恐るべき事態が生じていた。
二万円ぐらいで買った俺のテレビの液晶部分がくり抜かれ、そこに小人が複数人入っていた。俺の頭の大きさ程の小人が一人と、それより一回りも小さい拘束された小人が複数人だ。
そんなことある?
「だから言っただろうが、テレビの中に人が入っていると!」
「いや、こんなダイレクトな入り方があるか!?」
「ギャホホホ!!!」
破壊されたテレビと、哄笑するテレビの中の小人、動揺するエルフの女騎士、そして俺。
外の人間に自分のところの文化を教えようとして、逆に自分が知らないことに気付かされるというのはよくあることだが、こういうマジで前例のないパターンに気付かされることもあるんだなぁ。
俺は異文化交流の難しさにため息をつくと、でかい方の小人を掴み上げて(ああいうのって素手では触りたくない)、テレビから追い出すためのビニール手袋を探し始めた。
【終わり】
異世界人「うわぁ!テレビのなかに人が入っている!」 春海水亭 @teasugar3g
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