アパートの一室を不当に占拠する前店子(故人)を、新たな借家人候補が強制除霊を試みる。
前店子は死去後、法定相続人ないし相続財産管理人によって賃貸借契約が解除されているはずだが、悪霊として不法に不動産を占拠し、あまつさえ新たな入居候補者へロー祟りやみぞおちへの祟りなどの加害行為を繰り返し、極めて悪質である。前店子は「人間社会の側が幽霊から賃料を徴収するシステムがない」との理由で占拠を正当化するが、詭弁に過ぎない。
霊が場所に縛られ移動できない点は同情の余地が残るとしても、暇にあかせて戦闘力を上げ他者に害をなす行為は強く非難せられてしかるべきである。
不動産の所有者でもなく、不動産の管理を委託されてもおらず、賃貸借契約を結んでいるわけでもない「内見に来ただけの人」が、不法占拠者への強制除霊を執行する権利はあるのだろうか。
第一義的には大家ないし不動産屋が対処すべきである。しかし不動産管理業者の担当者から食塩を譲渡された点は、除霊の委任を意味するとも考え得る。また前店子が交渉の緒に就く間もなくロー祟りで加害行為に及んだことから、内見者による除霊は「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」(刑法36条1項)として違法性が阻却されると考えられる。
本作は挌闘技バトルを悪霊の世界に持ち込み、祟りや除霊といったホラーの世界が、挌闘技バトルの用語や展開によってズラされてしまうところに、大きな可笑しみが生じる。(別の世界軸の導入で生じる可笑しみがとても楽しかったので、上記はルールの世界軸を導入してみた。)
読めば絶対に笑ってしまう、名前を伏されても春海水亭を思い出してしまう話を、お題の提示から7時間ほどで書き上げてしまうのだから恐ろしい。
(KAC第2回アンバサダー企画お題「住宅の内見」/文=八潮久道)