箱の中の悦楽
志波 煌汰
箱いっぱいに詰まった、人人人人。
昔から箱が好きで好きでさぁ。
形は何だっていいんだ。立方体だろうと長方体だろうと。円柱や六角柱だっていい。要するに、箱の見た目、外面じゃなくてむしろその機能……何かを入れる容器としての機能が好きなんだ。
より正確に言うと、箱の中に何か詰めるのが好きって感じかな。
親父が昔買ってきてくれたおもちゃに、箱詰めパズルってのがあってさ。
知ってる? 容器の中にうまいことピースをこう、はめ込んでさ。完成すると、隙間なくぴっちり容器の中にピースがはまるようになってるんだよね。あれが本当に好きで。
親が心配になるほど熱中して、一日中そればっかりやってたっけ。
だからまあ、生まれ持っての性癖って奴だろうねこれは。
ビデオデッキに色々詰め込んで壊しちゃって、こっぴどく叱られたこともあったなぁ。
でも子供が穴に何か突っ込みたくなるのって極々一般的なことらしいね?
いや、大人の男も穴に突っ込みたくて仕方ないって奴は沢山いるけどさ(笑)
つまらない下ネタ言っちゃった。つまらないより詰めるのが好きなのにね。
とにかく俺はフツーの子供で、フツーの子供のまま大きくなっちゃっただけってこと。
だからうちの両親もまさか俺がこんなことになるとは思ってなかっただろうなぁ。
え? 何の話かって?
もっと大事なことを話してほしいって……何焦ってんの。
ってそうか、時間ないんだっけ。
部屋の隅っこで怖ーい看守さんが見てるもんね。……おーおー睨んでる。怖い怖い。
確かにあんま時間かけてられないね。
でもまあ、大事な話なんだよ。俺にとっては。
結局あんたらが聞きたいのって動機でしょ?
分かってるよ、みんなして聞きたがるんだもん。何で、何で、何でって。
と言っても、そんなに大したものはないって。
俺はただ、箱に人間を詰めたかっただけなんだから。
そう、人間を。
大きくなってからもさ、箱に色々詰めるのがやめられなくってさ。
手当たり次第に色んなもんに色んなもん詰め込んで怒られたなぁ。
おもちゃとか文房具とか、石とか砂とか。
自分の血で箱を満たしてみようとしたこともあったな。中学生の時だった。
そりゃもうめっちゃくちゃに心配されたよね。自殺未遂するなんて、何か悩みでもあるんじゃないかって。
マジで一ミリも深いこと考えてなくて、ふと思いついちゃっただけなんだけどね。箱を血で満たしたら面白いんじゃないかって。
それにしても考えなしすぎたなぁとは反省してる。
それが未遂で終わったのが良くなかったのかもしれないな。
それから何だか満たされなくなっちゃって。
箱がじゃなくて、俺の心が……ああいや、俺の心という箱が。なんつって。
箱に生肉詰め込んでみたりもしたけど、なんか違うんだな。
空虚さを誤魔化すために、色んな趣味に手を出してみたな。スケボーとか、写真とか、ギターとか……。
そんな時に、あの箱に出会ってね。
その瞬間に思ったよ。ああ、これだって。
あの箱に、人間をミッチミチに詰め込んでみたいって。
そう思った。
そうしないと、と思った。
そうなんだよ。俺は「箱に人間を詰める」って考えが頭から離れなかったんだ。自分の血を詰めるのに失敗した、あの時から。
詰めたくて詰めたくて仕方なかった。人間を。
自分の体じゃ駄目だった。だったら他人を詰め込むしかない。
どうせならたくさんいた方がいいなと思った。たくさんの人間の肉を、箱にギュウギュウに詰められたら。
それはどんなに気持ち良いだろうなと想像したよ。
でもそんなの、尋常な手段じゃ無理だろ?
だから俺はこうすることに決めたんだ。
結果として捕まっちゃったけど……後悔なんて一つもしてないよ。
望みは叶えられたんだからね。
おっと、そろそろ時間?
話してるとあっという間だなぁ。
俺こういう……えーっとなんだっけ……尋問? みたいなの苦手なんだけど、あんたはまあまあ楽しかったよ。
ん? ああそうそう、尋問じゃなくてインタビューだった。
良かったらまた連絡してよ。いつでも話をするからさ。
何ならドキュメンタリーとか作ってもらおうかな……あー、はいはい、分かってる分かってる、今行くよ。
うるさくてごめんね。なんか怒ってるみたい。
俺がふざけて看守さん、なんて言ったからかな。顔が怖いからぴったりだと思ったんだけどね。
ほんと、こんなとこまで来ちゃったのはあの鬼マネージャーに捕まっちゃったせいだよ。
言った通り、後悔なんて一つもないけどね。
ここまでの道のりは厳しかったけど、ようやく望みは叶えられたんだから。
ううん、今から叶えるんだから。
俺のギターであの箱を埋めるっていう、中学生からの夢を。
それじゃあ存分に楽しんで、そして見て行ってくれよ。
(「大人気バンド『The BOX』~初武道館ライブの裏側~」より一部文字起こし)
箱の中の悦楽 志波 煌汰 @siva_quarter
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