地獄へと向かう箱

あげあげぱん

第1話

 気が付くと私はエレベーターに乗っていた。


 エレベーターに乗っているのは私ともう一人、高齢の男性。彼はボタンが並ぶ壁の前に立っていた。彼はこちらを振り向いてにこりと笑う。


「おや、気付いたか。それでは下へ向かおうか」

「下へ? あんたは誰だ?」


 老人は私の質問に答えることなくボタンを操作する。エレベーターが動き出し嫌な感覚があった。足は床に吸いつけられ、体が下方へ落ちていく。そんな感覚があった。


 扉の前面には窓があり、外の様子が分かる。だが……外には不衛生な錆色の通路ばかりが見える。何階降りても、同じような光景だ。


「ここはどこだ? あんたは誰なんだ?」

「誰でも良いだろう。俺が誰かなんて」


 老人は面倒くさそうに答えるが、俺にとってはどうでも良くない。


「私は階段を昇っていた。そして……」

「なら、分かるだろう。ここがどういうところかは」


 分かる。私は階段を昇り、首に縄をかけられ、そして。


「死んだんだな。私は」

「そう、死んだんだ。お前は」


 エレベーターの窓から見える光景を見る限り、天国に向かっているとは思えなかった。それもそうだ。私は人を殺した身。天国へなど向かえるはずがない。


「この箱は地獄へ向かっているのか?」

「そうだ。地獄へ向かっている」

「私は責め苦を受けるのか?」

「普通の罪人はな」

「どういうことだ?」

「お前は妻を殺され、その復讐を果たしたのだろう。上からはそう聞いている。そういう人間にまで責め苦を与えている余裕が、今の地獄には無い。お前が殺した男共は今、地獄の炎で焼かれ続けているが、炎だって有限なんだ」


 そう言って老人は苦笑する。


「お前は罪人だ。天国には入れない。だがな、罪を受けさせる余裕もない。だから、上はお前を地獄で働かせることにした。拒否権は無い」


 やがてエレベーターが減速していく。


「お前の仕事は地獄の炎に燃料をくべることだ。さあ、行け」


 エレベーターが開く。私の地獄での日々が始まろうとしていた。

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地獄へと向かう箱 あげあげぱん @ageage2023

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