あぶれ者が集う場所。無いなら作る。

まずレビューとしては好ましくない指摘から始めさせてください。本作の作者は他作品にて文体や構成など、文意・物語だけでない、伝え方そのものを変調させる実験を行ってきました。ですが本作は文体や語り口は保守的です。それは娯楽作としては読者に安全な構造をしています。

そこで語られる物語は、実に非現実的でありつつ薀蓄に支えられて、フワフワとファンタジーしておらず、現実味が共存しています。こちらも本作の作者の真骨頂です。

この世には、大多数が作る文化や「空気」からはみ出ている人が少数います。生きていて苦しく、しかし多数派を変えることはできず、「メサイアコンプレックス」を叶えることもできない、世界の中で疎まれているのに世界より小さくて「嫌なら出てけ」と蔑まれても出ることすらできない、苦しい場所に居続けることを定められた、あぶれ者。

主人公は、話が展開するにつれて、そのようなあぶれ者であることが分かります。その主人公が、同じように世界であぶれた人達と出会います。

彼らは居場所があります。しかしねぇ、あぶれ者がいられる場所が最初から在ったはずがないじゃないですか。

居場所は何であれ人が作るもの。彼らは彼らがいられる場所を作っていました。大変な努力の上に。

この世から逃げることもできないあぶれ者が自分の居場所を自分で作る、この物語は、同じように現代日本であぶれている人に必要だと信じます。実は同じ目的の物語は現代日本に多く在り、これは大きな流れの一滴という位置付けです。評者は、もっと他の作品を読むべきでしたが、この物語に出会って助かったと思います。

評価が分かれるとしたら、続編をいかに作るかでしょうか。居場所を作った主人公達は、自分達を苦しめた外界といかに関わるのか。どのような答えが示されるのか、楽しみにしています。

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