第4話 不協和音

『見えて来たな、あれが爺ちゃんのログハウスだ』




車に乗ってからしばらく経った頃、

真句一言で寝そうになっていた俺の目が覚めた。



森の木々を抜けた先には、広々とした庭と

ログハウスが1件だけ立っていた。




『そう言えば真句、何でこんな分かり辛い家に

真句の爺ちゃんが住んでたんだ?』




言われてみればそうだ、ここから近いスーパーでも車で1時間は掛かる。



そんな状態では、不便で仕方ないし

身の危険が迫っても助けを呼べない。


とてもじゃないが、生活出来ない状況だ。




『そう言えば言って無かったな、俺の爺ちゃん

マタギだったんだよ』


『マタギって.....ここに住んでるのと関係あるのか?』



『まぁ、何て言えば良いんだろな.....

俺の爺ちゃんは、少し変わってたんだよ。

昔から人が嫌いで、信用出来るのは自分の体と武器だけだ.......っていつも言ってたんだ。

だけど、俺の事を引き取ってくれた時は、凄い可愛がってくれたんだ』



真句は、9歳時自分の両親と姉を火事で亡くし後、誰かに引き取られてから12歳まで1回も俺達と

会った事が無かったが.....



久しぶりに会った真句は、少し大人びていた。




『家族を無くした時の俺は、ずっと心を閉ざしていたけど、爺ちゃんが絶えず愛情をくれたから、

俺は立ち直れたのかな.....』



『じゃああの家には真句の爺ちゃんが居るのか?』




真句のお爺さんがいるなら、俺達の状況もわかってくれる筈だ。




『あぁ......爺ちゃんは、俺が中学卒業した後に.....

山で亡くなっちゃったんだよ』



初耳だった。

その頃の真句はいつもと変わり無かったが.....

そんな経験をしてたとは。




『...す....すまん真句.....嫌な事思い出させたな....』



『嫌な事じゃねぇよ。

それに爺ちゃんは昔から「死に場所は山が良い」

って言ってたから満足だっただろうよ。

それにな、死者の事を話すのは良いことなんだぞ、

あの世にもこの話が爺ちゃんに届いているからな』




真句は、そう言いながら車を停めた。



『お前らそんな暗い顔しないで行くぞ』



俺達は車を降り、家に向かった。



『よし、じゃあ入るか。

ただい―――ゲホッゲホッ』


『ゲホッゲホッ....めちゃくちゃホコリ臭ぇ』



家の中は至るところに蜘蛛の巣が張っており、

それだけでは無く虫の死骸やらが落ちていたりと、

住めない環境になっていた。



『こりゃ掃除する以外無さそうだな。

薬都、お前確か運転免許持ってたよな』


『持ってるけど....それがどうしたんだ?』



『俺の車使って良いから、坂東と一緒にこの住所に住んでる【高山】って男を探して、この銃を見せてくれないか?』




真句は、俺に住所が書かれた紙をくれた。



『もし高山を見つけたら、俺の名前を言えば多分

わかるはずだ.....』


『わかった....じゃあ真句の車借りてくぞ。

行くぞ坂東』



俺と坂東は、車で高山と言う人物を探しに行った。





―――――――――数時間後――――――――――



『ここ.....だよな....』



俺がそう言うのにも理由があった。

紙に書いてあった住所の場所には、武器屋が建っていた。



『悩んでても仕方ないし、とりあえず入ろうよ

薬都』


『まぁ、そうだな』



坂東と俺はそのまま武器屋に入った。



『へぇ~これが武器屋か、何気にこんな場所初めて来たな』


『でもさ、誰もいない様な......』




店の中には、客どころか店員まで居なかった。

だが、店の武器は鏡の様に反射する程綺麗だった。




『多分、店の奥で休んでるんじゃないかな?

呼んだら来ると思うけど.....』


『じゃちょっと俺、店員さん呼んでくるよ』




俺は、レジの近くに行き呼び出しベルがあるか確認した。



(あれ?ベルが無いな.....仕方ない、直接呼ぶか)


『すいませんー!!店員さんー!』



するとレジの奥から足音がした。




『すまんねお客さん、うちは滅多に客が来ないんで、だらけちまってたよ』




奥から出て来たのは、獣人族らしき屈強な女の人

だった。



『なんだい?お客さん、そんな呆気に取られた様な

顔して』


『すいません、獣人の人を初めて見たもので...』




『あぁ、そう言う事かい。私は正確に言うと獣人と人間のハーフだね』




ハーフと言われて、俺は納得した。

確かに獣人は毛が全身を覆う位生えているが、

この人は、獣耳こそ生えているが毛の多さは人間と

変わり無い。




『で、お客さん今日は何をお求めで?』


『あの、高山と言う人はここにいらっしゃいますか?真句と言う私の友人がここに行けば会えると

聞いて.....』





『高山?それは私の事だが、真句なんて人知らないね』




俺は驚きと同時に困惑した。


何故なら俺は高山は男だと聞いていたが、高山と

名乗るこの人は、女の人だ。

それに真句の事を知らない様だった。




『もしかしたら、その真句って人は私の弟の事を

言ってたんじゃないのか?』


『弟?』




『あぁ、少し前にポルタで魔石収集の旅に行った

ばかりだが、よく真句って名前を言ってたな』




俺は落胆した。

魔石収集に行ったならしばらく帰って来ないはず

だ。




「私なら、あのポンコツ弟よりも、腕は良いから要件を言ってくれれば何とかしてみるよ」



「お願いします......ですが、ここで見た物は他言しないでください」




「わかった、私の職人魂に誓ってな」



俺は、隠し持っていた銃を店員に見せた。


銃を見せた途端、店員の顔がこわばったが、

慣れた手付きで銃を分解した。




『この銃、全ての鉄が使われている部品に魔力が

宿ってるね...........すまないが、1発だけ弾を使ってもいいか?』



俺が首を縦に頷くと店員はハンマー?の様な形の

器具を取り、銃弾をその器具の中に はめ込んだ。


かと思うと、急にその器具をハンマーの様に机に 打ち付けた。



(何やってんだこの店員?!そんな事やったら銃弾が爆発するぞ!)


俺は思わず、レジの下に隠れてしまった。



だが、一向に爆発する気配がしなかった。




『お客さん、もう終わったから立ち上がりな』



俺は店員の言葉を信じて立ち上がった。


するとあの器具の中には銃弾の先端部分と、

光輝く程に綺麗な粉状の物体があった。


自分の意思では目が逸らせない程に美しかった。



『あの、これは一体....』


『これは魔石を粉々にした、【カースドパウダー】って呼ばれる物だよ』




(カースド.......意味は呪いだが、こんなに美しい物が何故呪われたなんて呼ばれてるんだ?)




『カースドは、数年前からある火薬の様な物だな。

だが、その爆発する威力はどんな火薬よりも

強力なんだ。

誰が最初に作ったかは定かじゃないが、いつの間にか広まった物で、

カースドを使った銃弾や爆弾を作ろうと、いろんな奴が試したが........結果は言うまでもなく失敗作ばっかりだった』


『でも、火薬なら火をつければ爆発す物じゃないのですか?』



『そう考える人は、沢山いたが....そこがカースド

と普通の火薬の違いだよ。カースド自体は元々魔石だった、つまり魔力を含んだ火じゃ無いと着火が出来ないんだ。

今となっては、もう存在自体が忘れられた物だな』



だが、俺は逆に疑問が増えた。

何故今頃になってそんな物をSTやMKが俺らを

殺そうとしてまで手に入れたかったのだろうか。




『だけど、ここからが本題。

この弾丸の全ての金属に魔力が宿ってる、つまり

これはカースドを使用出来るだけでなく、

魔物も倒せる世界初の弾丸だな。

しかもさっきも言った通りこの銃も魔力が込められている........お客さんこれをどうやって作ったの?』



『えっと........それは.....』



俺は、今までの事を店員に全て言った。

だが店員は、俺を疑う事なく真剣に聞いていた。



『なるほど、さっきの奴らはそう言う事か』


『さっきの奴らって.......どう言う事ですか?』



『お客さんが入る前にスーツの男が入って来てな、「銃を持った男は来てないか?」って聞いて来たんだ。知らないって答えたら何も買わずに出て行ったよ』



まさかもう探し初めているとは思いもしなかった。

だが、奴らがわかっているのは銃を使った事だけの様だった。



『...........これからどうすんだい?お客さん』


『ひとまずは隠れて暮らしたいと思います。その後は......まだ考えていません』




隠れて暮らすのにも限度はある、熱りが冷めたら

県外に行くとの考えもあったが、まだ計画すら立てていなかった。




『私もなるべく情報を集めておくよ。

2週間後には弟も帰って来るから、その頃になった

ら、また来てくれよ』



『本当に.......なんて言ったらいいでしょうか.....』




『何も言わなくて良いよ、ただ今度来た時は何か

買ってくれよな』



俺は店員との話を終えると坂東の姿を探したら、

商品を見ていたようだった。



『坂東、話は終わったから帰るぞ』


『えぇ〜!?帰るのか?!もう少し俺は武器を見てたいけどな』




『さっきからお前そこに居るけど何見てんだ?』



坂東の視線の先には、ガラスケースの中に展示されていた1本の剣だった。



『めちゃくちゃカッコいい剣だな』


『だろ!俺さっきからこの剣に釘付けだよ!

やっぱり剣は男心を擽るな〜』



その剣は常に蒼く光っており、形はロングソードの様になっていた。


そして柄の部分には「ヴォルスター」と彫られていた。



『あぁ、その剣は私の作品だね』


『え?!ヴォルスターって店員さんの事なんですか?!』



『そうだよ、私の名前は高山ヴォルスター、

気軽にヴォルスと言ってくれ』




大体の武器は大手企業が機械で製造した物ばかり

だが、1流の武器使いは、ヴォルスの様な腕の良い鍛冶職人にオーダーメイドする事がある。


この剣も、その内の1つだろう。



『かっけぇ〜、どんな人が使うんだろ』


『坂東、早く帰らないと真句に心配掛けるだろ。

アイス奢るから帰ろうぜ』



『よしっ!今すぐ帰ろう!!』



坂東は、昔からアイスが大の好物で「アイスを奢る」と言えば、直ぐに子供の様に素直になる。




『また来てな!お客さん!』



ヴォルスが、そう言うと俺は軽く会釈をして店を

後にした。



『薬都、アイス奢るっての忘れ無いからな』


『わかってるって坂東、スーパーで食材買うからその時に買おう』



そう俺が言うと坂東は、嬉しそうな顔を見せた。




――――――――――数時間後―――――――――




『ただい――――え?!』



俺達は買い出しを終え、家の扉を開けた。


そこには先程のホコリまみれの状態が嘘の様に、

綺麗になっていた。



『あぁぁ.........おかえり......』



そして真句は力無くソファに寝転んでいた。



『真句........大丈夫か?』


『た....多分大丈夫......掃除が終わって疲れただけ

だから.......』



いつもの頼りになる真句とは違い、声も腑抜けて

いた。



『とりあえず高山って人は、今ポルタに居るらしいから、姉のヴォルスターさんと話してきたぞ』


『あぁ、確かに「ポルタに行く」ってこの前

言ってたな』



いつの間にか真句は元に戻っていた。


そして俺は暇だったので、何故か電波が通ってる

テレビの電源をつけた。



『――――く―繰り返します。今朝、男性2名を

殺害した容疑で警察が捜査していた、「永井薬都」「竹富坂東」「佐久間真句」の3名を警察が

指名手配する事を報じました。警察は――――』



『......マジかよ』


『身バレして、しかも指名手配なんて.....幾ら何でも早すぎる......』





「昨日に戻りたい」俺はそう切実に願った。
























































































































































































































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クリスタル・ガンパウダー ナント @donanto

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