第3話 火器に火を灯せ

『着いたぞ、薬都』




車を走らせてからどの位経っただろうか、辺りは既に真っ暗になっていた。放心状態の俺を真句は、起こしてくれた。



『薬都、俺はこのパソコンを警察に届けるつもりだ。その間薬都はゆっくり体と心を休めてくれ』



俺が車を降りた後、真句はそう言い車を走らせた。



俺はマンションにある自分の部屋に戻り、ソファで眠りについた。






『ピンポーン、ピンポーン』



俺はインターホンの音で目が覚めた。



(誰だよ、こんな朝早くから)



そう思いながら俺はドアにある覗き穴を見た。



(あれ?誰もいない?)



だがインターホンは鳴り続けている。

不審に思った俺はドアにチェーンを付けた。



(変な勧誘だったら直ぐに閉めよう)



『はーい今でま―――』



ドアを開けた瞬間、頬が熱くなり、俺の頬を何が

滴たり落ちた。

反射的に触った手は紅く染まっていた。



『うわ"ぁ"ぁ"ぁ" ぁ"!!?』




俺は急いでドアから離れた。

そこで俺は生まれて初めて、死を直感した。



『チッ、こいつチェーン付けていやがる。おいST、

チェーンカッターをくれ』


『はいよ、あとお前は条件反射で攻撃するの辞めろよ、排除対象が逃げちまうじゃねぇか』



ドアの向こうで誰かが喋っていた。



(排除対象!?何で俺がそんな事に?!

と、とりあえず逃げなきゃ!!)



だが、俺の階は3階で高さもかなりあった。

万が一着地したとしても地面はコンクリートで出来ており、脚への負担は無視できない事になる。



(もし着地を失敗したら俺は確実に死ぬ、どうしたら良いんだ...)




『バキィッン!!』



チェーンの切れる音がした、もう俺には飛ばないと言う選択肢は無かった。




(死ぬぐらいなら飛んでやる!!)



俺はマンションのベランダから飛び降りた。

運悪く俺はベランダの柵に脚を引っ掛けてしまい、

バランスを崩し背中から地面に落ちた。



『カハァッッ!!』



痛みよりも苦しみの辛さが勝った。

まるで肺が痙攣しているかの様に呼吸が出来なかった。



俺が苦しみに悶えていると、ベランダから男が飛び降りてきた。


その男は、まるで落下の衝撃が無いかのように平然と俺に向かってきた。



『飛び降りる勇気は良かったが、所詮はただの人間だ、俺達とは何もかもが違うんだよ』



奴の手には、ナイフが握られていた。

その時俺は、初めて走馬灯を見た。


懐かしい記憶、楽しい記憶、全てが一瞬で流れた。




『死ね、クソ野――――』ドンッ!!

キィ"ーー"!!!



自分の死を覚悟し目を瞑った瞬間、何かに追突された様な鈍い音と車が急ブレーキした様な音がした。



恐る恐る目を開けてみると、そこには真句の車が停まっていた。


『薬都!!早く乗れ!』



俺は、急いで真句の車に乗った。

真句は、俺が乗った事を確認すると、車を急発進させた。



『あいつら、何で俺の事を殺そうとしてたんだ....』


『わかんねぇッ!俺も朝寝ていたら殺されそうになったばっかりだからな!』




そして俺はふと坂東の事を思い出した。



『真句!坂東はどうしたんだ?!』


『俺ならここに居るぞ』



一瞬坂東の身を心配したが、坂東は後部座席に居た。



『とりあえずこのまま都会方面に行こう、そこなら人通りも多いし奴らも下手な真似出来ないはずだからな』



だがこの時俺はある不安を抱いていた。

不自然な程、俺達を追ってくる気配が無かったのである。



無理に追う理由が無いのか、それとも追わなくても良い何か策が在るのか、見当が付かなかった。




『丁度いい、あそこのビルで少し休むか』



車を走らせてしばらく経った時、真句がそう言い指刺した方向には、長い間使われて無さそうな雑居ビルがあった。



車をビルの駐車場に停めて、俺達はビルの中に入った。



『ふぅー、とりあえず一息付けたな』



『そういえば真句、あのパソコンどうしたんだよ』



さっきから真句の車を見回していたが、昨日の荷物は、全部あるが肝心のノートパソコンが何処にも無かった。



『パソコンは.....奴らに奪われたんだ』



無理もない、奴らはまるで人間じゃ無い様な動きと強さだった。



『だがな、データをコピーしたUSBは持って来れたんだよ』



真句はいつの間にかデータをUSBにコピーしていたのであった。



『じゃあそれを警察に出せば、俺達を保護してくれるんじゃないのか?』



『いや、それは駄目だった。昨日パソコンを警察に出しても、全く信じてくれなかったんだ。

それに、奴らに見つかる可能性もあるからな』



頼みだった警察には信じてもらえない、

このビルだって、長い間居られない筈だ。


『なぁ真句、あのアタッシュケース、持ってこれたんだよな?』


『一応全部あるけど......それがどうしたんだ?』



『もう、いっその事全部開けないか』


坂東の以外な提案に俺は息を呑んだ。

だが、見ずに奴らに殺されるのは御免だ。



『わかった、だが昨日みたいな映像関連の物だったら........俺は躊躇無く壊すつもりだ。

もう、お前らのあんな顔は見たくないからな』


『........わかった.......じゃあ...開けよう』



そして俺達は、1つ目のアタッシュケースを、

開けた。



『.......これ...銃だよな』




アタッシュケースの中に入っていたのは、属に言うアサルトライフルと呼ばれる銃が1丁と、その銃のマガジンが何個も入っていた。



『お前らさっきの事で混乱してんじゃねぇのか?

日本にこんな物騒な物、あるわけ無いだろ。

どうせ玩具に決まってる』



確かに坂東の言う通りだ。

だが........それにしては造形がリアルな気もするが、

最近の玩具はクオリティが高い物が多いからこれもその内の一つなのかもしれない。



『にしても、昔の俺もこんな感じの玩具を持ってたな〜〜、こうやって担いで――――――――――


ハァッハァッ これ有り得ない位に重いぞ....』



『そうか?玩具なら持てない位重いって事無いと

思うけどな。

よいしょっと、確かに重いな、しかも鉄が結構使われている........本当に玩具か?

ちょっと薬都、持ってみろ』



確かに坂東や真句の言う通り結構重い、

玩具に鉄が使われている事はたまにあるが、それは見えない所にあるのが殆んどだ。

ましてや落としたら危ない位に重いのは少しおかしい。



そう思い俺はアタッシュケースをもう一回見た。

アタッシュケースには、『MSGPーAK-12』と書いてあった。



『ん?ビルの駐車場にあんな車あったか?』



駐車場を見ると、俺らが来た時には無かった車があった。


だが何故か見覚えがあった、俺のマンションに1台だけ、見慣れない車が―――――――――――――



『ドンッ!!!』


『?!!』


突然ドアが轟音と共に宙を舞った。




『よぉ、またあったなクソ野郎。今度は逃がしやしねぇよ』


『お前が車に跳ね飛ばされなきゃ、ここまで追わなくてよかった話だろうがよ』




扉の奥から出て来たのは、今朝俺を殺そうとした

奴らだった。



『(何故だ?!さっき車に轢かれたばかりなのに傷一つないんだ?!)』



奴の服には確かに傷が刻まれていた、さっきもドアを蹴飛ばす位の超人的な力を使っていた。


人間じゃない様にも感じた。いや、本能で直感した奴らは人間じゃない。




『そういえば、さっきの事は悪かったよ。

俺達も焦り過ぎたんだ、その持ってる武器を渡してくれたら俺達は危害を加えない。

何なら謝礼金も出そうか?20万か?50万か?それとも100ま――――――――』


『いい加減にしろッ!!!!』




俺が恐怖で固まっていると坂東の怒号が聞こえたた。



『俺達を殺そうとしたのに金で許すかよ!!

そもそもあのパソコンの映像を観ただけで何で殺そうとしてくるんだよ!』



今までの緊張があったのか坂東は怒り狂っていた。




『あ"?お前らあのビデオ見たのか?!』



『え?俺達が見たのを知ってたから、殺しに

来たんじゃ..........』



『いや、初めて聞いたな』



どうやら奴らは俺達が映像を観たのを知らずに来た様だった。


つまり坂東が映像の事を言わなかったらやり過ごせた話だったのである。




『あれを観たなら話は別だ、やっぱりお前らを殺す事になった』



俺は坂東に視線を向けた。

坂東は全てを諦めたのか、悟った様な顔をしていた。


(このクソ坂東がァァァァァァ!!!)



そして、奴は銃を取り出し真句に向けた。

すかさず俺も持っていた銃を向け威嚇した。



『お前が真句に撃ったら、俺も撃つぞ』



勇気を振り絞った俺の声は、何故か自分には籠もって聴こえた。

心臓が脈打つ度に視界が揺らぎ、まるで体の中に火が燃え上がるかの様に熱くなった。


だが奴は、俺を見ようともしなかった。



『強がるな、クソ野郎』




その言葉を聞いた瞬間息が上がり、自分の意思と反する様に照準を下げた。

照準を再び向けようとしても、体に力が入らなかった。



(何故だ、何故体が言う事を聞かない!

真句が、俺の親友が殺されそうになってるんだぞ!)



そして俺は何故か罪悪感を抱いた。

まだ真句は死んでいない、

今奴を撃てば真句を助けられる、だが撃ってしまったら一生の十字架を背負う事になる。


そんな選択、俺には出来なかった。



つい、俺は真句の方を向いた。



真句は、俺の方を見て、微笑み、頷いた。


真句の拳は強く握り締めていた。



俺は理解するよりも先に涙が頬を伝った。



(嫌だ真句.....そんなの嫌だ....やめてくれ....)



そして奴の引き金に掛けた指が動いた。




!!!!!!!!!!



空気を切り裂くような激しい音がした。

思わず俺は目を閉じた。




そして再び目を開けると、


銃を持ったまま血まみれで倒れている、男がいた。

一瞬、真句かと思い目を逸らしたが、

直ぐに違うとわかった。


俺の両手が痙攣し、銃を持ったまま動かせなかった。

だが直ぐに痛みが俺を襲い、思わず銃を手放した。




『ぐぁっは......何故だ.......銃は効かない....はずなのに....』


『くっ、こちらMK!STがやられた!!』



MKと言う男が無線で誰かと話していた。

今が好機と思い、銃を持とうとしたが、手が悶絶する程に痛く指を動かせなかった。



『テメェ!殺りやがったな!!』



気付いたら奴は俺に拳銃を向けていた。


!!!


『ぐぁぁ!!』



撃たれたと思った瞬間、真句がMKを撃った。



『はぁ....はぁ.....はぁ.....大丈夫か?薬都』



一気に肩の力が抜けた俺は、その場にへたり込んでしまった。


そして罪悪感も感じた。

俺は真句を守る為、撃ったが人を殺した事は変わらない。



『.......お前は俺を助けるために撃ったんだ、だから自分を攻めるな。そもそもあいつらの自業自得さ』


真句の言葉で少しは心が楽になった。




『―――こ――こちら本部今、応援部隊を送った。

MK、事態はどうだ?』



奴らの持っていた無線が急に鳴り出した。



『応援部隊?!ここに居たらまずい!早く車に乗って逃げるぞ!』



『車って、行く宛はあるのか?!』



確かに車で逃げ続けるのにも限度がある。

ここの近くに隠れても、また見つかってしまう可能性がある。



『一応ある、俺の爺ちゃんが昔使ってたログハウスだ。そこならしばらくは安全に過ごせるからな。

わかったら荷物積んで早く行くぞ!』



俺達は真句の言う通り車にアタッシュケースと銃を乗せてログハウスに向かった。

















































































































































































































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