第2話 少女の記憶

 女神様は自ら救いの手を差し伸べる人に救いの手を差し伸べるのです。困っている人がいたら助けなさい。


「本降りになりそうですね……」


 協会へと向かう道、コートに身を包んだ彼女は、ふと、道端に倒れている少女を見つけた。


「大丈夫ですか?」


 彼女は駆け寄って声をかけた。


「……」


「大変っ!」


 返事がなかった。息をするのも苦しそうな少女を見かねて、藍霞は彼女を背中に乗せた。


「大丈夫、協会まで行けば神父さんが助けてくれます」


 苦しそうな彼女を横目に藍霞は雨の中、協会へと重い足を進めるのだった。

 

「女神はいつも私達の心の中にいます。これも神の導きでしょう」


 協会へとたどり着き、彼女を協会のベッドへと運ぶと神父は言った。


「よく頑張りましたね、藍霞。もう大丈夫ですよ」


 神父が両の手で触れて、治癒魔法を施すと、少女は目を覚ました。


「良かった……」


 藍霞は安堵の表情を浮かべる。


「ここ、どこ?」


「ここは協会です。衰弱したあなたを見て藍霞がここまで運んだのです」


「きょうかい?」


 少女は不思議そうに辺りを見渡すのだった。


「お食べなさい」


 神父は教会の奥からコッペパンと野菜のスープを持ってきて、少女に食べるように促した。


「ありがとう」


 少女はお礼をいうと、パンをガツガツと食べ始めるのだった。


「あなた、名前は?」


「風花」


「私は藍霞よ。よろしくね」


 これが風花という少女との出会いだった。

 

「事情はわかりませんが、これも女神の導きでしょう。今晩はここに泊まっていきなさい」


 神父は、空き部屋へと少女を案内すると、


「藍霞、頼みますよ」


「はい」


 藍霞に少女を託して部屋を出たのだった。


「あったかい」


 風花は布団に包まって言った。


「どうして、道端で倒れていたのですか?」


「お腹減ってた」


「両親は?」


「……いない」


「そうですか......」


 風花と話して分かったことは彼女には身寄りがないという事だった。


「大丈夫ですよ。安心してください。しばらくここに泊まると良いですよ」


 藍霞がそう言うと、風花は安心したのか、寝息を立て始めた。穏やかであどけない安らかな寝顔だった。


「うーん......」


カーンカーン


 協会の鐘が鳴り、目が覚める。上体を起こし、協会の礼拝堂へと足を踏み入れると、女神の像の前で藍霞が両の手を合わせていた。


「何をしてるの?」


「お祈りですよ」


「お祈り?」


「毎朝こうやって、女神様に祈りを捧げるのです」


「そうなんだ」


 そう言って、風花は女神像の前に両の手を合わせて見よう見まねで祈りを捧げるのだった。

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風花迅雷〜天然僧侶と気まぐれ盗賊〜 桜桃ナシ @variablemist

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