風花迅雷〜天然僧侶と気まぐれ盗賊〜
桜桃ナシ
第1話 終わりと始まり
「残念ですが......」
医者は彼女に持って一ヶ月の命だと告げた。
「そんな......」
彼女はその日、夢を見た。とても心地の良い夢だった。
「 ねぇ。ねぇってば」
「え?」
「見慣れない格好だけどお嬢ちゃんどこからきたの?」
鎧を着た若い黒髪の若い男性が彼女に声をかけた。
「えっと」
「私の友達に何か用?」
声をかけたのは青髪の美しい少女だった。
「ねえ藍霞、この人、知り合い?」
少女は男性に指を刺し、藍霞に尋ねる。
「えーっと、知らない人。かな」
「あなた、藍霞に手を出したらただじゃおかないわよ」
少女は男性にそう忠告すると、藍霞の手を引いて酒場から出ると、路地裏へと姿を消したのだった。
「ダメだよ、酒場なんてほっつき歩いちゃ」
「えっと」
「あれ、どうしちゃったの? 心ここに在らずって感じだけど」
「風花だっけ?」
藍霞はキョトンとした表情で尋ねる。
「えー。わ、わ、忘れちゃったの? 忘却魔法でもかけられちゃった?」
彼女は涙ぐんだ目を右手で拭うと、藍霞を抱き寄せて
「ごめんね。私のせいだね」
ごめんね。ごめんね。とただ謝罪の言葉を繰り返すのだった。
「えっと、その……」
「教会に行こうよ。きっと神父さんがなんとかしてくれるよ」
藍霞が困惑していると、風花は思いついたような表情でそう言うと、手を引いて教会へと足を進めるのだった。
「あの、風花ちゃんはどうして私にここまでしてくれるの?」
教会へ向かう途中、藍霞が風花に尋ねると、
「大切な友達だからだよ」
そう言って風花はニコリと笑ったのだった。
「おお、風花ちゃんいつも仲良くしてくれて助かるよ」
教会へ着くやいなや、風花は神父に駆け寄った。風花は
「藍霞が大変なの!」
といって、深刻そうな表情で神父へ助けを求めるのだった。
「忘却魔法の線は薄いかもしれませんね」
神父はそう言うと、藍霞の目をじっくりと見て、
「魔法の類では無さそうです。何かショックな出来事があったのかも知れません」
と言った。それを聞くと風花は目を丸めて、
「そっか……」
と呟いた。
「心当たりはありますか?」
神父がそう言うと、風花はあっと何かに気づいたかのような表情をして、言った。
「酒場で若い男に声をかけられてたんだよ。何か酷い目にあったのかも」
「そうですか……落ち着くまで少し休むと良いかもしれませんね」
神父はそういうと、大天使の祝福があらん事を。と言って教会の裏へと消えた。
「あのね。風花」
教会の椅子にかけていると、意を決したかのように藍霞が口を開いた。
「何?」
風花は心配そうな表情で尋ねる。
「信じてもらえるかわからないんだけど、私、どこか別の世界からここに来たのかもって」
「うん。信じるよ」
思いがけない返事だったのか、藍霞は驚いた表情をして続ける。
「その世界で、私、後一ヶ月の命だって言われて、自暴自棄になってたんだ。おかしな話だよね」
「おかしくなんてないよ」
「そうかな」
「うん」
そこで、藍霞はあっという表情をして言った。
「そういえば、ちょっと似てるかも」
「似てる?」
「うん。前の世界で同じ病室にいて仲良くなった女の子がいたんだ。その子とそっくり」
「藍霞ちゃん」
「あ、あれ」
不思議と藍霞の目からは涙が溢れていた。
「大丈夫だよ。安心して」
風花は藍霞を抱き寄せると、風花はこの世界で藍霞と出会った馴れ初めを語り始めたのだった。
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