時計を見ると深夜1時。夜を歩いている。人っ子1人いない道を歩いていると、ふと、異世界にきてしまったようなそんな感覚に陥る時がある。そんな時は寂しいなとか怖いなとかそんな気持ちよりも先行する事がある。
「きっと、戦場の兵士ってのはこんな感覚なんだろうな。異世界転生者もそうか。どこか不安で、でも少しワクワクしていて、あの草むらから敵が飛び出してきたらどうしようとか、人に出会ったらどうしようとか、きっとそんなことを考えるんだろうな」
何か特別なことが起こるわけではない。ただ、静寂と暗闇がずっと続く。それが夜だ。だけど俺はこの感覚が好きなんだ。だからこの感覚を忘れないようにしよう。そんなことを考えながら夜を歩く。なんで夜を歩いているのかって?
「次はきさらぎ〜きさらぎ〜」
目を覚ますと知らない駅だった。スマホを開くと、自宅からとんでもない距離が離れている。
「おいおい、二駅のりすごしただけでこの有様か。終電までのりすごしたらどうなっちまうんだ」
電車ってのは魔境だ。気づいたら意識がなくなっている。魔物か何かの仕業に違いない。そんなわけで今日も俺は夜を歩いている。だけど、不思議と不安はない。
「この感覚を忘れないようにしよう」
こうして俺は今日も夜を歩くのだった。いつもと変わり映えのないどことなく不安で、少しワクワクする夜だった。