イマジナリー蠱毒

かげのひと

イマジナリー蠱毒

 貴方は蠱毒というものを知っているだろうか?


 小さな容器にヘビや、ムカデ、毒蛙などの百種類もの生き物を入れ、最後の一匹になるまで共食いさせる。そうして、残った一匹は強力な毒となるのだという。

 なんとも恐ろしいことを考えたものだ。

 でも実際そんなことをしたら、生き物が可哀想だと思った。だいたい百種類もの生き物を集めるのは現実的には難しいだろう。

 だから、私は頭の中で蟲毒を作ることにした。想像上の蠱毒であれば、誰にも迷惑は掛けないし、虫だって触らなくて良いからだ。


 ──容器はそう。ちょっと良いボディショップのプレゼントボックスみたいな綺麗な箱がいい。

 

 ツルツルとした素材で出来ていて、黄色と青色のボタニカルな柄。それに金色の箔押しがされていたら目にも楽しい。リボンは白地に金の縁取りがいい。

 想像が出来たら、次に蝶々結びを解き、蓋を開ける。

 虫のかわりに胸の底の黒いモヤモヤを閉じ込めよう。人には聞かせられない汚い言葉とか、黒い感情を放り込むのだ。

 ロープみたいな蛇を想像して、ポイッと放り込む。

 再び蓋をしめ、リボンを掛け直した。

 するとどうだろう。

 少しだけ気持ちが楽になった気がした。

 

 △△△


 それから厭な事があると、私はこの箱に感情を放り込むようになった。

 二日前に吐き出した言葉はもう覚えていない。けれど、今日放りこんだ言葉とどっちが強いだろう。


 △△△


 怒りは瞬発力なのだと、誰かが得意げに言った。

 確かにそうだと、妙な納得を覚える。

 同時に、怒鳴り散らすしか能の無い旦那の瞬発力が少しだけ羨ましくも思えた。まぁ、別に見習いたくは無いけれど。


 △△△


 最近、すごく調子が良い。

 腹の立つことを言われても、箱の中に放り込めばいいからだ。

 我ながら蠱毒とは素晴らしい事を思いついたものだ。


 △△△


 我慢が出来ないことがあって、ついに箱を開けた。

 けれど箱の中には何もなくて、代わりに台所の包丁が目に入った。

 

 ちょうど、箱と同じくらいの重さだった。

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イマジナリー蠱毒 かげのひと @ayanakakanaya

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