ずっと前からあなたが好きでした。②

「違くない? 今じゃなくない?」


「告白するなら放課後の校舎裏、もしくは屋上って相場が決まってるから。これ以上なくおあつらえ向きだと思ったんだけど」


「いいか。声を大にして言ってやる。たった今、ひとりの少女が恋に破れました」


「キミが断ったから」


「オレが悪いって、そう言いたいのかよ」

 

「ううん。キミは悪くない。キミのせいではあるけど」


「そりゃ100パー、オレが悪いね」


「だれと付き合おうがキミの自由だし、だからだれとも付き合わなくたっていいし、反対にだれ彼構わず、節操なしに、取っ替え引っ替え、ちぎっては投げちぎっては投げお付き合いしたって、そんなのはキミの好きにしたらいいよ」


「ひょっとして今、めっためたにディスられてる?」


「まさか。たとえばボクがそんな態度取ったら、袋叩きにされたって文句は言えない。だけどあれは入学式の日、初めて見たそのときから本当に美しいなと。ボクはそう思ってるんだ。キミの容姿は並大抵じゃない。その鼻筋なんかもう天橋立みたいだ」


「あ、あま?」


「日本三景のひとつで、京都の――」


「じゃなくて。他人ひとの恋路のその末路を目の当たりにして、よくもまあ歯が浮くようなセリフ続けられるもんだ」


「うん」


「うんじゃない。遠慮ってもんを知らんの、ねえ」


「たしかに彼女には気の毒だけれど、それはボクにはどうしようもないから。それよりこんなチャンス逃す手はないと、そう思ったんだ」


『ふざけんな。黙って聞いてればどいつもこいつも好き勝手言いやがってよォ。オイ。オマエ』


 仁王立ちとなった彼女の人差し指は、ぴしりとヒズミを指す。


『ひとりの少女が恋に破れました? なんだその他人ひとごとみたいな言いぐさは。恋路のその末路を目の当たりにしたのはオノレのせいだろうが。当事者ァ。そしてオマエ』


 次にその指先はミユキのほうへ向けられる。


『なんて言った。なあ。今なんつったよ。ああん。もっぺん言ってみろ。たしかに彼女には気の毒だけれど、それはボクにはどうしようもない。それよりこんなチャンス逃す手はないと、そう思ったんだ。だと。そう言ったのか』


「一言一句、逃さず聞こえてんじゃん。なんで聞き返したよ」


『様式美に決まってんだろ。ボタァ!』


「告白初心者のボクだって、さすがに恋人のいる相手に好意を伝えたりしない。だからね、ふたりがどういうわけか別れてしまったから。それならって、まあ。そういうわけなんだ」


『別れてねえから、ただの痴話ゲンカだし。恋愛ってのはふたり何度となくぶつかって、それでも手と手を取り合って大きな障害をも乗り越えてくもんなの』


「さすがにこんだけデカいと越えられる気がしませんね」


『オマエは黙ってろよ』


「当事者の言い分を封殺とか、暴露系インフルエンサーも真っ青だ」


『は。当事者だったらなに言ってもいいって? いいわけないだろスカポンタン。いつからこの国は自分本位のヤツらばかりになっちまったんだ。教えはどうなってんだ教えは』


「なんのだよ」


『女の子にはやさしくしなさいって先生に習わなかったんですか。あー、そうか。ヒズミくんの美しさには、そんじょそこらの女子じゃ太刀打ちできないもんね。むしろ自分のほうにこそびへつらえって、そういう話」


「うん。そう。本当にそう。彼はトクベツなんだ。ボクがこれまで出会った人間のうち、飛び抜けて美しい顔立ちをしてる。初対面ならまず、女の子と見間違えてしまうくらいに」


『ハハ。語るに落ちたなマヌケめ。そりゃこの男の顔にしか興味ありませんって言ってるも同じだ。そんな上っツラだけのはなァ、恋でもなんでもない。正体見破ったり! 正体見破ったり! あれ。おかしいな。どうしてだろう、胸が痛いや』


「いや。なんか、ほんとごめん」


「ありがとう。肝に銘じておく。それじゃボクはもう引き下がらせてもらおう」


『待て待て、まだ返事もらってないだろ。ちゃんとフラれろ。私のように』


「理不尽すぎる」

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転生するまでに口にしたい100のこと 会多真透 @aidama

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