黄金の花は、いかにして開く

五色ひいらぎ

箱を彩る黄金の梅花

 東方の島国では、木箱に料理を詰めて供することがあるという。


「これがそれか?」

「ええ。想像とずいぶん違いましたが」


 毒見役レナートが、感心したように呟く。

 目の前には、濡れたように黒く艶めく三段重ねの箱。蓋と側面に金粉で描かれているのは、プルーニャの花だろうか。繊細な技芸で彩られた箱が、全部で四つある。


「この器に合わせ、気の利いた料理を作れってか」


 どうしたものか――考えかけた脳裏に、閃きが来た。


「任せとけ。国王陛下も客人も驚かせてやるよ。天才料理人ラウルの名に懸けてな」


 腕をまくれば、レナートはいつもの薄笑いで応えてくれた。



 ◆



 食材を用意する。

 牛肉。バルサミコ酢と蜂蜜。新鮮な野菜。ニンニク。最上級のアンチョビにオリーブオイル。

 まずは肉を蒸し焼きに。蓋をしたフライパンの隙間から、蒸気と共に脂の香りが上がってくる。別のフライパンからの甘い香り――酢と蜂蜜のソースを煮詰めている――と混じり、濃厚な匂いが辺りに満ちる。


「料理長、できました」


 背後から声がかかる。見ればボウルの中で、助手たちが裏ごししてくれた栗が、金色のペーストになっていた。

 役者は揃った。あとは、存分に役を演じてもらうだけだ。



 ◆



 仕上がった料理を、箱に詰める。

 上段には新鮮な野菜。アンチョビとニンニクのソースバーニャカウダソースに浸けて食べる。庶民の食物だが、美味は保証付き。これが「葉」だ。

 中段には薄切り肉。赤土の如く敷き詰められた牛肉に、酢と蜜の黒いソースがかかった「大地」。

 そして最後の下段には、ケーキスポンジとクリームの上に、細く絞った栗のペーストを敷き詰めた。所々に散る小さな栗が、「地中」で眠る生命の種。

 すべて、合わせれば。

 地に眠る種が、土に芽吹き葉を伸ばす。そして「花」を――箱を彩る黄金を、咲かせるのだ。

 植物の一生を、一揃いの箱に詰めた。もちろん味も、俺の精髄を籠めた。

 楽しみだぜ、陛下の御言葉が。そしてあんたの――手厳しい毒見役殿の御批評も、な。



【了】

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黄金の花は、いかにして開く 五色ひいらぎ @hiiragi_goshiki

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