魔王城のブラックボックス
ひぐらし ちまよったか
人族からの贈り物
――隣国、人族の王より荷物が届いた。
縦、横、高さ、それぞれ二メートル程は有る大きな黒い箱。つるりとした黒い材質は『ぷたっちっく』とか云う、わが魔王国には無い素材であろう。
中身は不明。危険物でも仕込まれて有るまいか? 取り扱いには十分注意が必要だ。
「――勇者『アモン』よ」
「はっ!」
玉座からだいぶ離れた下列より、ひとりの若者が進み出る。
長身、黒髪。
均整の好い体躯を持ち、ちかごろ、城内女官の人気が爆上がり中のイケメン武官だ。こいつの命ならば惜しくは、ない。
「中身を確かめよ」
「御意!」
慎重に箱へ近づき、ぐるりと周囲を確認して歩むアモン。時折り黒い壁面へ顔を寄せ、スンスンと匂っては、アゴへ手を当て首をかしげる。
リア充め、爆発してしまえば良いものを、なかなか用心深いではないか。
「――魔王様!」
「なんだ?」
「中より音が、聞こえます」
「おと、だと?」
やはり時計仕掛けの爆薬などが仕込まれているのだろうか? おのれ人類! 滅ぼしてやる。
「――呼吸音のようです」
「こきゅう……?」
箱の中身は、生き物なのか?
――ぱたん。
疑問を抱いたその時、軽い音が緊張の玉座の間に響く。
箱の正面側中央に、十センチ四方の小さな窓が内側から開かれたのだ。
中から白く細い手が、ひょいっと覗き、ひらひらと揺れる。
「――たべもの……ください……」
幼子の様な、アニメ声。
「たべもの……?」
「魔王様? 拙者、謁見中に小腹が空いた時の備えに弁当を持参しております」
なんと!? アモンよ、いくら序列が末席とは云え、それはあまりに不敬。
「与えても、よろしいでしょうか?」
……ふむ……ここで、このイケメン武官へ細かい事を云えば狭量と思われ、女官どもが給湯室の話題にしてしまうかもしれぬ。
ここはひとつ、見せてやろうぞ、魔王の男気!
「うむ! よきに、はからえ」
「御意!」
アモンは腰へ下げた錦鯉のポーチを開け、おむすびを一つ、窓から差し出される小さな手のひらへ、ぽんと置いてやった。
「わ~い!」
すっ、と箱へおむすびを引き戻すと、中から陽気な歌声が……。
「〽おむすびころりん すっぽんぽん」
危険物の恐怖に静かだった玉座の間が、お花畑な空気に包まれた。
「〽どどすこ どどすこ KAC投稿!」
箱の中で踊っているのだろうか。ゆさゆさと黒い光沢がゆれる。
「魔王様……箱の中身は……」
「ああ……もう、よい……」
――人族の王……いったい、何を企んでおったか。
「アモンよ……その箱は、お前にやる……さっさと持って帰れ」
「……ぎ……御意……」
――魔族の勇者『アモン』と、ポンコツ暗殺者・くのいち『なつめ』が、大陸統一を果たし多民族国家を建国するのは、まだまだ、先の話しである。
魔王城のブラックボックス ひぐらし ちまよったか @ZOOJON
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