私はこの箱から飛び立つ!

ゆる弥

外へ

 私は人生二十年間ここに閉じ込められてきた。

 学校にはもちろん行っている。

 でも、アルバイトはしたことがない。なぜかというとお小遣いを豊富にもらっているからなの。

 

 二十歳という節目で大人になった私はここから飛び立ちたい。

 その為にここ数カ月、アプリで行ってきた動きが成果を見せ始めていた。


 今日はその初日。私は今日ここから飛び立つの。

 しかし、それを阻止しようとする人がいる。


 洗面所で私は初めての化粧をしていた。


「まぁ! 化粧なんてしてどこに行くの?」


「うーん? ちょっと出かけてくるだけ。夜ご飯は食べるから」


「まぁ。行先は教えてくれないの?」


「内緒。夜までにはちゃんと帰ってくるから。ねっ?」


「何時に帰ってくるの?」


「六時とかかな。ちゃんと時間には帰ってくるから大丈夫よ」


「そう」


 第一関門クリア。

 私の行動を阻む人はこれだけではない。

 下地が終わり目のメイクに取り掛かっていた時に現れた。


「どこにいくんだ? 送っていこうか?」


「歩いていくから大丈夫。電車に乗っていくから」


「駅までちょっとあるぞ?」


「歩いていくから大丈夫。運動したいの」


「そうか? 気を付けていくんだぞ? 本当に気を付けてな? 電車は痴漢とかもいるから。あっ。帰りは駅まで迎えに行くか? 夜道は危ないだろう?」


「じゃあ、それはお願いしようかな。ありがとう」

 

 ウインクを送る。

 第二関門クリア。

 これ以上は踏み込んでこないだろう。


 この人は私に嫌われたくないからね。

 リップをつけて完成した。


 一旦部屋へ戻って姿見の前で身なりを整える。

 大人な感じのコーデにしてみたのよね。

 相手は一個上だし、このくらいの方が良いわよね。


 カバンを腕に下げて部屋を出る。

 前に立ちふさがったのは強敵の第三関門。


「そんなに可愛くして一体どこに行く?」

 

「出かけてくるの。私が誰に会おうが、どうでもいいでしょ?」


「よくない。可愛い妹だからだ!」


「あのね、そういうのが嫌なの! どいて!」


「どこで誰と会う?」


「関係ないで……しょ!」


 膝蹴りを股間にお見舞いしうずくまっている間に階段を下り、出口へと向かう。


「気を付けていくのよ? どこに行くのかぐらい言って行ったら? 心配だわぁ」


「内緒! じゃあね!」


 出口の扉を開ける。

 開けた先には夢にまで見た誰にもとらわれない世界。


 待ち合わせ場所でアプリを開く。

 連絡を取ると現れたのはちょっとタイプではないけれど、笑顔が素敵な人だった。


 私はこの人とあの箱から飛び立つの。

 これまで箱入りでいた私とはおさらば。


 二人は手をつなぎ、夢の国へと消えて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私はこの箱から飛び立つ! ゆる弥 @yuruya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ