Picaresque hero【KAC20243】
にわ冬莉
悪漢のヒーロー
その箱には、希望だけが残された。
災いをすべてぶちまけ、皆が苦しむさまを眺めながら、ひとり、希望を愛でる。
大丈夫。
まだこれがあるから、大丈夫。
──けれど、残された希望を持っているのは誰だ?
「だから、こうするしかないだろ!」
そう言って譲らない男に対し、女もまた、負けじと返す。
「違うもん! 猫だもん!」
「は? それは違う箱の話だろ?」
呆れた口調で言い返す男に、女はムッとした顔を向ける。
「仮に猫だとして、それをどうこの状況に活かすつもりだよ?」
試すような発言。
女はきっかり三秒考え、素直に答える。
「さぁ?」
ある意味潔い。
「なんだよそれ……。なぁ、もう気が済んだだろっ? 早くどっか行けって!」
冷たくあしらわれるも、首を振って、
「行かないし!」
と鼻息を荒くする。
辺りには人だかりが出来ており、時折、悲鳴も上がる。そんな状況にも拘わらず、女は落ち着いた様子でそこに立っていた。
「お前頭おかしいんじゃないのか?」
男に言われ、憤慨する。
「はぁ? この状況であんたがそれを言うってどうなのよ? あんたの体にくっついてるのはなにっ? どう考えても頭おかしいのはそっちでしょうが!」
男の体についている小さな箱。それは小型の爆弾である。起爆装置を取り上げなければ、いつ爆破されてもおかしくない状況下にある。
「あのさ、私があんたに言ってあげられることはひとつだけ。箱の中に残された希望も、猫も、どっちも素敵なモノ。でもあんたの体についてる箱の中に入ってるのは、ただの火薬! 花火以外の火薬は、素敵じゃない!」
随分大雑把な括りだ。
そのままつかつかと歩み寄る。
「ばっ、来るな!」
焦る男にはお構いなしに、すぐ傍まで近付き、耳元で囁く。
「あんたがそんなことしなくても、私がちゃんと仕留めるから安心なさい」
落ち着いた口調で言うと、男から起爆装置を奪う。懐から小型の銃を取り出し、まさに逃げようとしていた大統領の頭を綺麗に撃ち抜いた。
戦争を阻止せよ
Picaresque hero【KAC20243】 にわ冬莉 @niwa-touri
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