ゴーストハウス・イン・ザ・ラップ
志波 煌汰
俺達がお前を揺らしてやる
ラップ音が鳴り響いていた。
「ひいいいいいいいいい!!! だから言ったじゃないですかああああああああ!!!」
俺をこの部屋まで連れてきた不動産屋は恐怖から耳を塞いでうずくまっている。
俺自身も呆気にとられていた。
売れないバンドマン。チケットノルマで金もない。バンドが解散し、養ってくれてた彼女にも放り出された俺が住むには普通の賃貸は高すぎる。
だから事故物件を自分から希望したのだ。
とはいえ、さすがにここまでとは思ってもいなかった。
どん! どん! ぱぁん!
どん! どん! ぱぁん!
誰もいない部屋から、激しい音がする。なんて自己主張の激しい幽霊だ。
……なんだかムカついてきた。楽器演奏可と言うことだから内見に来たのに、こうも騒音が酷くちゃ話にならない。
ばぁん! 俺は大きく床を踏み鳴らした。
「な、何を!?」
指先がやけに綺麗な不動産屋が慌てる。
「ラップ音に対抗してるんですよ。今流行りのラップバトルってやつです」
「違うと思います」
無視して俺はラップ音に合わせて音を立てる。
どん! どん! ぱぁん!
どん! どん! ぱぁん!
……そのうち俺は変な気持ちになってきた。
「ィユア……クァビグ……ザストリー……」
「ど、どうしたんですか!」
ぶつぶつと呟く俺を見て目をむいた不動産屋が肩を揺さぶってくる。俺は呟くのをやめない。
気付いてしまったのだ。
俺を止めるな。
ラップ音は鳴り響く。
俺は唱え続ける。
どん! どん! ぱぁん!
どん! どん! ぱぁん!
そして俺は拳を振り上げ、高らかに叫んだ。
「ウィー・ウィル・ウィー・ウィル・ロック・ユー!!」
呆気に取られる不動産屋を尻目に、ケースからギターを取り出した俺はブライアン・メイばりのギターソロをぶちかます!!
そしてそれが終わり、拍手が(ラップ音で)響く中、俺は言った。
「なぁ、バンドやらないか? ドラム探してたんだ」
壁に血文字で「OK」が浮かんだ。
これが後に世界を揺らす俺達「ゴーストハウス」が結成された瞬間だった。
ゴーストハウス・イン・ザ・ラップ 志波 煌汰 @siva_quarter
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