第27話・神殴り代行

 エイル・ダールジャンからは時折冒険者としての試練を言い渡される。

 基本的には一緒に受けた依頼を単独で熟せというものであり、僕はCⅠランクまでのクエストをそうされる。

 エイル・ダールジャンは僕たちを含むとBⅢランクまでの依頼を受けられる。


「さぁ、ワイバーンだ。偽龍とも呼ばれるあれを、ルウェリンたちで……」


 ワイバーン、龍種ではなく空を飛ぶトカゲに近い。ブレスなども放つ強敵で、それはCⅠランク、最高難易度である。

 なお、偽龍とも呼ばれるように真なる龍種も存在する。それを撃退するクエストをドラゴンクエストと呼ぶが、これの挑戦権はSランクにしか与えられない。

 そう、撃退クエスト。龍種はほぼ完全な不死性を持つが、その魂を喰らえる能力を以てのみ殺せるらしい。


「倒した……」


 そう、ワイバーンが見えていればそこはグラスの攻撃圏内。ルウェリンの魔法はもうワケがわからない。


「何!? 今の青白い線!」


 僕は思わず訊ねた。そう、明らかに純魔力ではない線が頭を貫いたと思ったら傷一つないワイバーンが空から落ちてきたのだ。


「核熱魔法の一種……。核熱から取り出す光子で、脳と神経をつなぐ細胞だけを破壊した……」


 グラスの言っていることは……。


「わけがわからないわ……」


 フロールさんの言うとおりだった。魔法だけではなく、生物の肉体組成についても、一般に知られる知識の百年も二百年も先を行っている。


「簡単に言うと、体の内部の急所だけ破壊した……」


 と、簡単に言われても……。言うは易し、行うは難しの超離れ業である。


「偽龍が……。こんなに簡単に……」


 と、マチューさんは頭を抱える。戦いにすらならなかったのだ、グラスの魔法の前ではワイバーンも敵ではない。


「だぁーはは! こりゃ、Sランク相当だな!」


 そんな、ドラゴンクエスト挑戦権を僕らは持つとヴェルンドさんは言う。いや、正確にはグラスが……。

 しかしである、テイマーのレベルは不思議なもので……。僕の頭の中には急に八つ目の葉が生える光景が浮かんだ。そう、テイマーLv8への到達だ。


「あ、テイマーがLv8になりました。新しいスキルが……」


 僕はそのスキルを感じ取って、戦慄していた。あまりに強力なのだ。


「どうした……?」


 最も近くにいるアンダさんが訪ねてくる。僕は答えた。


「第二従魔です……」


 効果は、読んで字のごとく第二の従魔を獲得するというもの。これまでですら数珠繋ぎに従魔を増やせるテイマーのスキルの強力さに驚いていたのにこれだ。


「それって……」


 フロールさんも戦慄している。ただでさえ、うまくやれば強力なテイマーのスキルがまた一段階化けた。


「ねずみ算式に、従魔が増えるっていうわけだね……。ギフトも……」


 そう、無数のギフトと無数の従魔を持つ軍勢の主。それこそがテイマーというギフトなのかもしれない。そうだとしたら、その成長能力はディヴァインすら相手にならない最強だ。

 無数の種族の言葉を束ね、情を繋いでいく。それが僕の役割かも知れない。いや、テイマーとはそういう役割のギフトなのかもしれない。

 ともかく、マチューさんもそのデタラメっぷりに頭を抱えている。


「魔物の国でも興せって感じのギフトだな! あははは……」


 ヴェルンドさんの笑いも勢いがなかった。

 そう、扱い方によってはあまりに世界を塗り替えるギフトだ。こんなものがあっていいのだろうか。それとも、僕の嫌いな神とやらの意思だろうか。


「僕、こんなギフト持ってていいのかなぁ……」


 とにかく、神のことは好きになれそうもない。だって、ギフトを与えて人の人生をそれに縛られたものにしてしまう。

 ギフトの能力を努力で覆すのは極めて困難で、貴族ですら高位ギフトの前にはひれ伏すこともある。


「貰っちまったもんは仕方ねぇ、持って好きに生きるしかねぇわな!」


 ヴェルンドさんは、極めて豪快だった。その豪快さは人を救いそうにすら思う。


「そうだね、ギフトなんて変えられないんだから……」


 そう、ギフトは一生変わらない。しかし、よかった神のことを好きな人がこのエイル・ダールジャンにいなくて。


「僕、神様が嫌いなんだ……」


 だから、僕はいった。


「多かれ少なかれ、冒険者は神嫌いが多い。信仰系ギフトでもな……。でも、わかってるから黙ってたんだと思うが、街で言うなよ! 教会に目をつけられると、国王ですら厄介って噂だ……」


 教会の力は強い。ましてや人間にギフトを与えるのが神だと言うのだからなおさらだ。だから、言いづらそうにするほかのメンバーに代わってヴェルンドさんが言った。


「うん……でも決めた! 僕は、神様が気に食わない! 一発ぶん殴ってやる!」


 僕は、僕の人生の目標をそこに定めた。こんな力があるのだ。きっと僕の不満は神に届くだろう。


「だぁーはは! そりゃまた剛毅な人生だなぁ! ま、お前ならぶん殴れるかもなぁ! 神様ってやつをよ!」


 それを聞いたヴェルンドさんは、これでもかというほど笑った。神様をぶん殴るなんて荒唐無稽なようで、僅かに兆しが見えてきた目標はきっとすごく遠い道のりだろう……。

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ねずみ算テイマー!ー街から追放されたけどテイムを従魔と共有して脱法レベリングー 本埜 詩織 @nnge_mer2

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