第26話・巣立ちの用意

 そんな魔法の授業があって、数日は魔導師としてのレベリングに励んでいた。つまり、勉強と実践だ。

 Lv50が強者ならLv70は人外でLv100は神の領域である。


「フロール、感謝する。魔導師としての戦闘も身に付きつつある。現在Lv96まで成長した……」


 この英知の化物は、人外を突破して神の領域へと王手をかけていたのである。

 理解がそのままレベルに直結する魔法系ギフトと、まるで知能系ギフトを有しているかのようなグラスの相性は……。率直に、良いを通り越してズルいチートだ。

 僕の従魔が強すぎて、僕の立つ瀬がない。だがいいのだ、グラスは友達だし従魔。グラスまで含めて僕の実力なのである。


「……化物」


 それを聞いて、フロールさんはグラスに少しでも魔法の極致まで話してしまったことを後悔した。


「ねぇグラス。もうディスパレートル・ノヴァは使いこなせる?」


 それは全方向に超高エネルギーを放つ魔法である。熱どころの騒ぎではない、そのエネルギー量は術者自身も跡形もなく消し去ってしまう。


「理論上は可能……」


 グラスはそんな恐ろしい事を言ったのである。

 ディスパレートル・ノヴァはとにかく発生するエネルギーの種類も多い。そして量も多い。多種多様なエネルギーに対応する高強度の結界を用いないと、僕らを巻き込んでありとあらゆるものを破壊してしまう。


「すごいなぁ……僕まだLv18だよ……」


 といっても、テイマーよりレベルは高くなったのだ。


「あなたも十分強いからね……」


 僕の戦い方は基本的に至近距離での剣術と魔法の混合戦だ。剣術に関するギフトは持っていないが、それでも剣士Lv15に相当すると言ってもらっている。


「しっかし、大所帯になったもんだ! なぁ、マチュー!」


 それでも最終意思決定は、リーダーであるマチューさん。彼はヴェルンドさんに肩を叩かれるが、落ち込んでいた……。


「このままでは、エイル・ダールジャンの主力はグラスになってしまう!」


 と……。

 そんな折、ギルドに到着する。すると出迎えと言わんばかりに、すぐに受付嬢さんが僕のところへ走ってきた。


「ルウェリンさん、国家指名依頼の前段階調査にご協力ください!」


 受付嬢さんは、何やら難しいことを言った。でも、それがなんのことか僕にはすぐにわかった。


「は、はい!」


 しかし、国家指名なんて緊張も緊張だ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕は、従魔たちやエイル・ダールジャンと共にギルドの一室に通されていた。


「やぁ、君がエイル・ダールジャンの弟子のルウェリンくんだな! 話は聞いている。さて、国家指名依頼とは、オーガの村……オーガロカリテの徴税依頼だ。君は、あそこに戻っても構わないと思っているだろうとの予測から、君への指名が下った。さて、それについて、大丈夫か再確認したいのが今回の要件だ」


 そこには、一人の中年の男性がいた。そして、出会うなり要件を丁寧に話してくれた。これは忙しい人の特徴だ。


「あ、はい……えっと……」


 すると後ろからマチューさんが耳元で囁いて教えてくれた。


「その人は支部長だよ……」


 と。

 忙しいわけだ、ここの冒険者のまとめ役なのだ。


「失礼、支部長、ジャン・クロードだ。気軽にジャンと呼んでくれて構わない。それで、指名依頼が下った場合、君は受諾してくれるという話で構わないかね?」


 正直な話、この依頼をほかの人にやらせるのはちょっと嫌だった。なぜなら僕は積極的にオーガの村に行きたいと思っているからだ。


「もちろんです、ジャン支部長!」


 だから僕は言った。ほかの冒険者に取られてなるものか。


「そうか! ありがたい。さて、ついでに君の従魔についてだが……。好ましい結果を出してくれている。オーガの中に理知的な者がいることを街の人々は感じているようで、オーガの住人を受け入れる土壌が育ちつつある。従魔の……」


 そう、彼には僕の従魔の名前まで把握しておくような時間はない。


「私だろうか? 私は、人の言葉ではヘドルと名乗っている」


 狩人を意味する、僕の故郷の言葉だ。正直、こっちの名前の方がよかったのかもしれないと今更悩む。


「ヘドル殿! ありがとう……」


 しかし、忙しい中でも礼を尽くしてくれる人だ。そして、感情は結構表に出してくれる人だ。


「いや、私はこのルウェリンを気に入って付いてきただけだ。礼には及ばんぞ!」


 ヘドルもそう言いながらニコニコと返事をした。友達……とはちょっと違う気がする。もっとこう、保護者的な立場をヘドルは好む。


「ではこれからもルウェリンくんを助けてやってくれ、ヘドル殿」


 そして扱いもやっぱり少しヘドルが上だった。特にそこまで気にはしないけど……。


「ところで、徴税にはいつ行けばよろしいでしょうか?」


 グラスは責任者と見るやいなや、優雅に言葉遣いを変えた。響きだけで、どこかの令嬢のようだ……。

 僕の顔でそんな令嬢みたいな仕草をしないで欲しい。


「半月後になる。それから、可能なら毎月行って欲しいのだが……いいだろうか?」


 ジャン支部長の言葉に僕は否をいう気なんて全くなかった。


「もちろんです! 任せてください!」


 そうなれば僕は、定期的にあのオーガ村……オーガロカリテへ行くことができるのだ。ちょっと楽しみな依頼になった。


「その間、エイル・ダールジャンはどうしましょう?」


 それについてだが、マチューさんの質問に即座にジャン支部長は答えた。


「最初は同行し、育ち具合を見て段階的に単独で行かせるようにして欲しい。巣立ちのきっかけさ……」


 そう、僕のエイル・ダールジャンからの巣立ちは思ったより早く訪れそうだったのだ。

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