第11話・グラス覚醒

 そんな手続きが終わり、僕も晴れて冒険者となった。とは言っても弟子であり、師匠であるエイル・ダールジャンの指導を受ける身だ。


「ところでルウェリン。君の従魔、グラスの好物を聞こうか」


 マチューさんは僕だけではなく、グラスの食事まで面倒を見てくれるつもりらしい。


「脳だよ。ちょっと怖いけど……」


 グラスはそれがなければ可愛いスライムだ。


「脳ですか? 廃棄になる動物の脳がありますけど、食べてくれますか?」


 基本的に僕たち人間は脳は食べない。動物素材を加工するにも、魔物素材を加工するにも脳は余る。


「いいの!?」


 脳を食べるとグラスの知能が上がる。


『脳!?』


 でもやっぱり脳が大好きなグラスはちょっと怖い。


「いいですいいです。食べてもらえると助かります! 解体場にこれを持って行ってください!」


 そう言って受付嬢さんは、サラサラとペンを走らせて廃棄される脳を処理させてもらうための書類を作ってくれた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 解体場では、何人もの人たちが働いている。定期的に魔物や動物の死体なんかが運び込まれて食肉や防具素材に加工しているのだ。

 マチューさん以外は僕のために紙や雑貨を買いに行ってくれた。なんだか申し訳ない気分になる。


「嬢ちゃん、ここにあるのは全部捨てる分だ。どうだ? 従魔は食べたられるのか?」


 なんて、僕にそのうちの一人が聞いてきた。嬢ちゃんと呼ばれるのがちょっと騙しているみたいで悪い気がする。


「ごめんよポール。この子は男の子だ。訂正してあげてくれるか?」


 しかし、マチューさんが訂正してくれたのである。


「そりゃ、悪いこと言っちまった……。許してくれよ坊主!」


 なんだかんだ、この解体者のポールさんもいい人である。


「いやいや、そんなの……。僕はルウェリン! この子がグラスだよ! 今日はこの子にご飯をありがとう!」


 僕はお礼を言う。敬語を使わないのも使わないので大変だ。冒険者の流儀だから守りたいのだが、ついつい感謝とかの気持ちと一緒に出てしまいそうだ。


「じゃあグラス! 処分、出来るだけでいいから頼むぜ!」


 なんて、僕の肩に乗ってるグラスにポールさんは話しかけた。ただ、グラスもまだ人間の言語を理解しているわけではない。


「グラス、食べていいって!」


 僕が通訳しないと、理解してくれないのである。

 しかし、そこにはぐちゃぐちゃになっているが動物の内蔵や脳などが山と積まれている。


『脳!!!』


 なんて言いながら、グラスはその廃棄物を積んである場所に飛び込んで狂喜乱舞した。

 グラスは巨大化し、のしかかって消化していく。


「おわ、でかくなった!」


 と、ポールさんは驚きの声を発する。


「スライムって腐った物しか食べられないと思ってたけど……」


 そもそも基本的にスライムはダントツで最弱の魔物だ。ねずみよりも弱い。だから、マチューさんも驚いていたのだ。


「何匹かスライムを食べると、腐ってないものを食べられるようになるみたいなんだ……」


 そこらへん、僕もグラスから魔物見識共有で得た知識で知っただけだ。


「そっか、しかしどのくらい食べられるのかな?」


 なんて、マチューさんが訊ねてきた。


「わからない……。ただ、グラスはすごくたくさん食べられるよ!」


 多分僕が言わなければフォレストケイロウ一頭まるごと食べたりするだろう。


「スライムがなぁ……本当に助かるぜ!」


 ポールさんはグラスが彼らのゴミを消化していくのを嬉しそうに眺めた。

 しばらくして……。


『ルウェリン。私、グラスは今まであなたの要求を全くかなえられていなかったね。こんな私を見捨てないで友達と呼んでくれてありがとう……』


 そこには大量の脳があったのだ。脳を食べるたびに知能を向上させるグラスにそれだけの脳を食べさせたらどうなるか予想しておくべきだった。


「え!? グラス!?」


 僕は驚き、腰を抜かしてしまう。


『解析完了……』


 雑談をしながら待っていたのだが、そのグラスの思念を受け取ったかと思うと。


「たくさんの恵みをありがとう。改めて、グラスだよ」


 グラスは人のような声を出したのである。僕そっくりの姿も形作る、青い半透明のその体で。


「「「喋った!?」」」


 三人で腰を抜かしてしまった。


「いくつか声を出すための器官が捨てられていたから、そこから解析して声を出せるようになった」


 そう、知能が僕を追い抜いたのである。明らかに理知的な半透明の賢者。冒険者の流儀に従い、敬語を使わず話しかけてきた。


「グラス! これからはおしゃべりできるの!?」


 でもどうなろうと、グラスは僕の最初の友人だ。


「うん……。嬉しい?」


 グラスは訊ねてくるも、答えなんて聞かなくてもわかるだろうに。


「すっごく嬉しい! グラス、ところでどこまで食べられる?」


 そういえば、それを訊ね忘れていた。もう半分ほど食べているが、まだ体の一部は廃棄物を食べている。


「全部食べられるよ。そうだ、ルウェリン。次に森へ行ったらテイムをしたい。できるだけ知能の高い魔物がいいよね?」


 なんて、グラスはこれまで僕がスライムを従魔にしたことによって公開した分を全部取り戻してあまりあるようなことを言った。


「うん!」


 だって、あのグラスがこんなに喋っているのだ。ただ姿は僕の双子のようだけど。


「それから、冒険者の生存だっけ? あれも、覚えたいんだ。私ならすぐに思い出せる」


 それだけで満足なのに、こんなにもいろいろと考えてくれる。しかし、まさかここまでのことになるとは予想外だった……。

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ねずみ算テイマー!ー街から追放されたけどテイムを従魔と共有して脱法レベリングー 本埜 詩織 @nnge_mer2

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