第10話・冒険者ルウェリン
プロヴァンス、イミル大森林に隣接するもうひとつの村であり。イミル大森林は国境の意味を持っている。そんなイミルというのも僕の故郷側の国で言われている名前であり、プロヴァンスでは別の名前だった。その名前はリーニュ大森林と呼ばれていた。
そんなプロヴァンスの街を僕は、エイル・ダールジャンに連れられて歩き冒険者ギルドまでやってきた。
「おう! エイル・ダールジャン、また飯でも行こうぜ!」
なんて声があっちからこっちから彼らにかかる。彼らは気さくにそれに返事を返していた。
しばらく進み、受付にやってくると受付の人は彼らを見るなり態度を良い方向に変えた。
「お帰りなさい、エイル・ダールジャン! その子はどうしたんですか?」
なんて、満面の笑みである。その受付嬢さんは僕に気づき、少し心配した目で見てきた。
「トロイディッドウィンから追放されちまった孤児らしくてね……。それがたくましく森で数日間サバイバルしてたみたいなんだよ。となったら……わかるよね?」
マチューさんはどうやらエイル・ダールジャンのリーダーであるようだ。その報告を聞くと、受付嬢さんはパンと手を合わせ机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。
「期待の新星ですね! エイル・ダールジャンの弟子にふさわしい子です! よくそんな子見つけましたね!」
僕は情けなくも硬直していた。だって、憧れの冒険者の世界が周りに広がっているのだ。
『大丈夫?』
すっかり賢くなったグラスは僕の心配をしてくれた。脳が絡まなければ本当に可愛いスライムだ。
「たまたまさ! そうだ、ルウェリン。ザヴォワール文字か共用文字はかけるかい?」
この世界では言葉は共用語というのが一般的だ。だけど文字は、国ごとに伝統的な文字があり、基本的には文章はそれでしか通じない。
「ごめん、あの……キムル文字だけ……」
そんな高等な教育を受けたわけではない。だから、自分の地方の文字をなんとか覚えて本を読んだ程度だ。
「何がわりいことあるか! 俺らがこれから教えてやればいいだけだ!」
と、ヴェルンドさんは俺の背を軽く叩いた。でも、ちょっと痛かった。
「そうだよ! ルウェリン君は私たちの弟子だからね!」
と、フロールさん。本当に僕はたまたま最高の人たちに拾われてしまったのではないだろうか……。
「共用文字で冒険者の生存を書こう……」
アンダさんは僕の手をとって、そんなことを言ってくれた。どこまで優しいのだろうか、この人たち……。
「ということだから代筆するね。弟子登録だから、テイマーでも構わないだろ?」
そう言いながら羊皮紙にサラサラとペンを走らせるマチューさん。ちょっとかっこよかった。
「テイマーなんですか? 珍しい! もちろん、本来はギフトで登録を拒むことはしません。テイマーの方が試験を突破できない場合が多いだけで……。弟子登録なら試験は免除になります。エイル・ダールジャンの皆様なら余計に弟子登録も許可されてますしね!」
大体のことは受付嬢さんが言ってくれた。多分、僕を気遣ってちょっと説明もしてくれているのだ。その証拠に途中から目線が僕に向かっていた。
「あの! 弟子って取れない冒険者もいるの?」
僕は、とりあえず気になったことを疑問としてぶつけていく。
「そうよ! 冒険者としての素行が悪いと、弟子は取れないの! まぁ、そこまで弟子取っても儲かるわけじゃないけどね……半分は慈善事業なの!」
その疑問にはフロールさんが答えてくれた。
聞く限り素行の悪いような冒険者がやりたがることでもない気がする。でも、それ以上に冒険者ギルド側で弟子を取れる冒険者を絞ってくれていいるのだ。
「エイル・ダールジャンはランクこそCですがとても素行のいいパーティーですよ! フロールさんが過保護にならないかというのがギルド唯一の懸念です!」
という、受付嬢さんの補足。フロールさんは確かに優しい。それが懸念になるということは冒険者の師弟制度はかなり新米冒険者にとって恩恵が大きいようだ。
「さ、書き終わった! 照れるから、あまり褒めそやさないで欲しいね……」
マチューさんはそう言いながら頬をポリポリと掻いていた。
「そうは言いましてもですね! うちの二大看板なんですからね! 武力のル・グレグ・ノワール。ムードメイカーのエイル・ダールジャンなんですからね!」
この街で一番素行のいい冒険者たちになんと僕は拾われてしまったのである。これは追放されたことに感謝しなくちゃいけないかもしれない。
「そんなことないって……」
なんて、マチューさんは頬を掻く手が止まらない。
「だはは! 誇ろうぜ! 友よ!」
と、ヴェルンドさんはマチューさんの背を叩いていた。
「うん! 最高のパーティー」
と、アンダさんも胸を張っている。
「こんな私たちだから、いろいろ安心していいよ! いっぱい頼ってね!」
と、フロールさんは僕に優しい言葉をかけてくれた。でも過保護の片鱗は見えている気がする。
かくして、僕はプロヴァンスで冒険者を始めることになった。彼ら、エイル・ダールジャン弟子として……。憧れだった自由の世界に僕は足を踏み入れたのである。
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