第9話・冒険者の誘い

 その後、冒険者の人たちも各々食材を用意してくれて食事の準備が整った。

 良かったのは冒険者の人たちが火打石を持っていて火をつけるのが比較的楽だったことだ。


「ところでマチュー、テイマーが冒険っていうのはそんなに珍しいのか?」


 ヴェルンドさんはそう聞いた。


「まず、テイマーというギフト自体が珍しい。それでもって、テイマーのギフト自体はステータス補正がないんだ。しかもテイムとは言っても、コミニケーションを円滑にするくらいの効果。強い従魔を作るのはまず安全じゃない」


 マチューさんは僕に代わって僕の知らないところまでヴェルンドさんに教えていた。


「それで、ルウェリン君は冒険者なの?」


 フロールさんはそこを訊ねてくる。料理が出来上がるのを待ちながらだ。


「冒険者登録してないんだ……。ギルドに行ったことすらなくて」


 僕は正直に打ち明けた。さっきは虚勢を張ってしまったが、本当の僕は何者でもない。


「しかし、この森で生きてきたんだろ? そしたら君は十分に冒険者として斥候としての力を持っているね! やってみる? 冒険者!」


 マチューさんは僕に言った。その言葉がどれほど嬉しいか。


「やってみたい! 」


 だって、僕の心を救ってきたのは冒険者だったから。

 冒険者の生存、最終章。冒険者の尊厳と責任。冒険者は街の中にあってはその法に従うものである。しかし、街を一歩出ればそこは法の無い世界である。だからこそ自由たれ、誇り高くあれ、優しくあれ。


「あははは、本当にお前のことが気に入ったぞ!」


 ヴェルンドさんはそう言って僕の肩を組んだ。


「なぁ、ルウェリン。どうやって冒険者としての生き方を学んだんだい?」


 マチューさんは真剣な顔になって僕にそんな質問を投げかけた。


「冒険者の生存っていう本があったんだ、孤児院に……」


 あの本一冊のおかげで僕は生きていると言っても過言ではない。院長はそんなに本に執着がなかった。だから安く手に入る本から順に手に入れていた感じがある。


「おぉ、あれか! あれなら俺ですら写本させられた!」


 それが安く手に入る理由は、ヴェルンドさんから始まって……。


「冒険者なら全員写本させられる。だから安い」


 そう、本は全部手書きだ。そしてそんな理由で安いのだとアンダさんが教えてくれた。


「じゃあ僕も写本させられるかな? 原本見なくてもかけるよ!」


 僕はあの本を何度も読んだ。空で思い出せるくらいには、本当に何度も。


「すごいわね! それに生きてるんだから、鍛えもしたでしょ?」


 なんて、フロールさんに訊ねられる。


「うん! 音が出ないようにこっそり……」


 だからそこまで本格的ではなかった。もちろん戦闘系のギフトを持っている人には逆立ちしたってまだ勝てない。でも勝てる気がするのだ、テイマーのギフトには強さの上限が無いように思える。


「ふふっ、男の子ねぇ!」


 なんてフロールさんは微笑んでいた。


「よし、焼けたぞ! お前の肉だ! 野生のスパイスでイケ!」


 なんて、ヴェルンドさんはグラスが食べて切り分けてくれた鹿のもも肉を僕にくれた。


「ありがとう!」


 それに、食いつく。


「飯がうまいのは大事だ!」


 アンダさんはエイル・ダールジャンの斥候のようだった。

 かぶりつくと肉汁がぶわっと出てきて、それが野生のスパイスと絡んで口の中にハーモニーを巻き起こす。


「美味しい!!!」


 びっくりするくらい美味しかった。


「そうだ、俺は剣の道ってギフトを持ってるんだ! 一方的に知っているのは悪いだろ?」


 マチューさんからギフトを教えてくれた。


「私は魔導の叡智。魔法系のギフトよ!」


「教えるってことはそういうことか! 賛成だ! 俺は砦のギフト。盾を持つために生まれてきたようなもんだぜ!」


 この世界はギフトによって人生が左右される。ただ、そんな人生を左右するものを与えてしまう神様が俺は嫌いだ。


「俺も賛成。遠当てのギフトだ。鷹の目は斥候に役立つ!」


 と、アンダさん。


「さっきから何を賛成って言ってるの?」


 するとフロールさんが身を寄せてきていった。


「あなたがよければ私たちの弟子にならなかなって? 私たちは手数料を減額してもらう代わりに、あなたに武器防具と紙を買ってあげて冒険者の生存を書き写させるて、Cランクまで面倒をみるの」


 なんか一番乗り気そうに見えるのはフロールさんだった。


「彼女はこの手の話に絶対反対しないからね! 冒険者の師弟制度だ! どうかな? 俺たちに面倒をさせてもらえるかな? すぐ俺たちと同じランクになっちゃいそうだけど……」


 そう言って、マチューさんは笑った。そんなことを言われて、僕が断れる理由は無い。


「お願いします!」


 次の瞬間には頭を下げていた。

 久しぶりに人の街に入れるし、しかも冒険者になれる。こんなに特典の多いことはそうそうない。


『ルウェリン、嬉しそう!』


 食べ終わったグラスはこっちの会話を聞いていた。

 どこまで理解しているかわからないけど、ただフォレストケイロウは骨すらなくなっていた。ルウェリンの消化能力はすごく上がっているようだ。


「うん! 嬉しいんだ!」


 僕が言うと、グラスは嬉しそうに飛び跳ねて僕の肩に乗った。


「よしよし、そうしよう! ただ、敬語はなしだよ! 冒険者の流儀だからね! 少なくとも、プロヴァンスではそうだ!」


 彼らの来た街はプロヴァンス。僕が追放されたトロイディッドウィンとは全く違う文化を持った街だ。

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