第8話・本物の冒険者
茂みをかき分けて現れたのは人間だった。
「お、おい君! こんなところで何を!?」
こんなところにいるのはたいてい冒険者だ。ただ僕は錯乱していたのだ。
「ぼ、僕は冒険者だぞ! 優秀な斥候なのだ! 負けたりしないぞ!」
フォレストケイロウの討伐を終え、森で生きる厳しい側面と向き合っていた。だから、思わず威嚇してしまった。
「まてまて! 俺たちも冒険者だよ! ほら、剣に鎧に!」
この森は二つの人間の街に隣接している上、比較的安全な森だ。
「あ、あぁ……そっか。人間だ!」
僕はそれに気づいて、棒きれを下ろした。
「聞かせてくれないか? 君に何があったか……」
冒険者だって頻繁にやって来る。
「えっと、どこから話せばいいのか……」
僕は、久しぶりの人間との邂逅にいろいろとわからなくなってしまった。
「まぁ、少し待ってくれ! おい! 遭難者だ!」
そう、冒険者の男が言うと、森から三人の男女が現れた。一人はエルフの女性、少し安心するような雰囲気を持っていた。そしてもうひとりは獣人の男性弓を持っていた。最後に背の低い男性、巨大な盾を背負っていた。
「よし、全員揃った! 俺は、マチュー。俺たちは冒険者パーティーのエイル・ダールジャンって言うんだぜ! 銀の翼って意味だ!」
その名前は僕の出た街の言葉とは違った。多分もう一個の街の出身の人だ。
「私は、フロール。みんな出身が違うのよね、私たち……」
エルフの女性はそういった。そりゃそうだ、エルフにはエルフの国があり、エルフの言葉がある。
「アンダだ。種族すらバラバラの友達パーティーだからな」
獣人の男性はアンダという名前らしい。僕も言語に詳しいわけじゃないから、由来はよくわからない。
「ヴェルンドってぇのが俺の名前だな! 見ての通りのドワーフよ! 思い出すぜ、酒場で出会ったことを! さぁ、最後はお前さんの番だ!」
冒険者たちはそれぞれ名前を教えてくれた。そして、ドワーフの男性が僕に名前を訊ねてきたのである。
「僕は、ルウェリン! と……グラス!」
僕はフォレストケイロウを食べているグラスを呼び寄せた。
『ん?』
するとグラスはフォレストケイロウの鼻からズルリと出てきた。まるで鼻水である。
「待って、すると君はテイマーなのか? 冒険者してるの?」
マチューは少し困惑をしながら、僕に訊ねてきた。
テイマーが冒険者をするなんて普通はありえない。戦闘力が低いとされているから向いていないと思われている。
今なら向いている気がするけどなぁ。スライムは静音性に優れているから……。
「冒険者登録をしてるわけじゃないんだ。ただ、街を追い出されちゃって……」
そう、街から蹴り出されて仕方なく僕は冒険者まがいのことをしている。錯乱して嘘をついてしまった。
「辛かったね……」
エルフの女性はそれを聞くと、涙目になって僕を抱きしめた。
「え? あ……あれ?」
僕はその状況に困惑していた。
「フロールはこういう話に弱いからな……」
アンダさん、獣人の男性が僕に申し訳なさそうに言った。
「がはは! 剛毅な奴だ! ところでルウェリンといったか!? 男でいいんだな?」
ヴェルンドさん、ドワーフの男性は笑った。
「う、うん……」
聞かなきゃわからないだろうか、僕は男なのに。
「すごいね、数日とはいえ森で生きてたのかい?」
エルフのフロールさんが離してくれないまま、会話が進んでいく。誰か助けて欲しい。
「うん」
そんな事を思っていると……。
「フロール、その子はそんなに辛い思いをしてないみたいだ……」
そう言って、アンダさんが僕からフロールさんを引き離してくれた。
「え? そうなの?」
ちょっと不思議な人である。
「うん! ウェールズの紳士たるもの寡黙であれなんて、僕には合わない! だから森で生きたのだ! 捨てられて清々してるんだ!」
そう、むしろラッキーだった農奴として寡黙に生きるくらいなら森の孤児の方がいい。ディヴァインのギフトを手に入れてくれた孤児にありがとうを言いたいくらいだ。
「ガハハハハ! それでこそ男だ! 見た目こそ女のようだが、こいつは立派な男だな!」
そんな事を言ったヴェルンドさんは、マチューさんに小突かれていた。
「失礼だよ! 彼も男なんだ、そんな事を言われたくないだろう!」
と、言われながら……。
「お、応……すまん!」
ヴェルンドさんはちょっとガサツな性格のようだ。
『ルウェリン? 食べてていい?』
グラスはマイペースだった……。
「うん、いいよグラス」
きっとほかの人には聞こえないだろうと思って、ちゃんと名前を言って伝えた。
「えっと、街から追放されちゃって辛くないの?」
フロールさんはどうやら僕を心配してくれるようだった。
「辛くないよ! だって元々孤児で、家畜みたいに育てられてたから!」
「うむうむ、そうだろうな! お前さんは剛毅だからな!」
と、ヴェルンドさんは納得したように言った。
「家畜だって!? そんな……いや、何でもない……」
一瞬、マチューさんはすごく怒った顔をしていたのである。
「とにかく、冒険者やりたいかい?」
しかし、気を取り直してマチューさんは僕に訊ねた。
「うん! あ……はい!」
敬語の訓練はされていた。奴隷たるもの主人に対しての言葉遣いも必要だったのだ。
「いや、冒険者ならそれはいらないよ!」
ただ、マチューさんにそう言ってもらえたのである。
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