第11話 魔王城見学

 それから一月後。


 魔王様不在の魔王城には、大勢の人が訪れていた。


「え――。こちら、勇者殿が魔法一発で破壊した扉の残骸でございます」

「おおおおっ」

「見事だ」

「こんなに粉砕されるのか」

「さすが勇者は違うな」


 見学者たちは興味深そうに、扉のない壁穴を覗き、床上に散乱している石片を眺める。


「今回採用しました謁見の間の石製扉は、ハイケイケイ社の『対勇者扉』となっておりました。そして、今回、この結果を解析し、ハイケイケイ社より『真・対勇者扉』が開発される予定となっております。これがパンフレットでございます。製品のお問い合わせをするときは、そのパンフレット裏に記載されております担当者にご連絡ください」

「ふむふむ」

「その際、『魔王城で穴あき扉を見た』と告げていただけましたら、メーカー小売価格より三割引きの価格にて、施工までおこなう手筈となっております。しかも、既存扉の撤去、処分費用が無料となります。『魔王城で穴あき扉を見た』を忘れずにお伝えください」

「おおっ」


 見学者たちは、カタログに文字を書き加えていく。


「そして、こちらの段差でございますが、歴代勇者様の八十パーセントの方が気づかづに躓いております。ゲキスイハイム社の『キヅカナーイ段差』でございます」

「おお、これが噂の」

「実物は、初めてみるな」

「たしかに、この材質だと勇者が躓きそうだ」

「つづきまして、こちらの落とし穴はゴツビシデンコウの……」


 コウ・ホウー広報大臣の説明にしたがって、ゾロゾロと見学者たちは城内を見学していく。


 彼らは異世界の設計士であったり、施工業者社長であったり、施主だったりする。

 勇者を迎え撃つための城内設計に頭を悩ませる人々であった。


 彼らをターゲットに魔王城の勇者迎撃用おススメアイテムを紹介していく。

 なにしろ、三十六回もの勇者対峙ノウハウを持つ魔王城の舞台裏を見ることができる、またとないチャンスなのだ。


 見学者層は変わったが、見学者数は回復したのだから問題ない。

 見学者にメーカーの商品を紹介することによって、謝礼も発生するようになった。


 そして……。


 とっても広い室内訓練場では……。


「コウ・ホウー殿。訓練場に大勢の人がいるようだが。あれはなんなのだ? 祭りかな?」

「はい。現在、屋内訓練場は、訓練のない日はイベント会場として貸し出しております」

「ほ、ほう……?」

「各種イベント展示会、発表会、もちろん、訓練場としてご利用いただいております」

「なるほど……。今日はなにやら、仮装大会なのかな? 販売会なのかな?」

「はい。本日は『呼三毛会場』として、熱狂的な信者の方々にご利用いただいております!」






 こうして、魔王様不在の魔王城には、大勢の人が訪れ、にぎわいをみせたのであった。


(終わり)

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