第159話 結集した力

Side:マニーマイン

「買って来たわよ」

「よし、お手並み拝見だ」

「任せたぞ」

「頑張って」

「応援してる」


 やるわよ。

 坑道の入口に立った。


「【土魔法】」


 みんなから魔力が流れてくるので、魔力は一向に尽きない

 坑道から鉱石が水の様に出てくる。


「うほっ、凄いな」

「採掘要らずか」

「こりゃいい」

「袋を担がなくて済むのね」


 そして、夕暮れまでには、予定していた量を掘り終わった。

 ここでの仕事も終わり。

 この魔道具さえあれば、どんな困難な現場でも立ち向かえる。


「おう、奴隷から解放されたぜ。こうなったのもあんたのおかげだ。この恩は忘れない」


 奴隷冒険者のひとりが別れの挨拶にきた。

 他にも何人か同じようなことを言ってきた。


「マニーマイン、お前を雇って大正解だよ。今回、早く終わったので、予定より早く解放された冒険者が多数出た。また奴隷冒険者を仕入れないとな」


 奴隷主の嬉しそうな顔。

 結局はイタチごっこなのね。

 でも、魔力を結集する魔道具さえあれば負けない。


「また、傲慢な顔になっている」

「リーン、そんなつもりはないけど。新しく来る奴隷冒険者が」

「新しく来る奴隷冒険者も救ってやろうとか考えているんじゃない」

「いいえ、みんなの力でみんなが救われるのよ」

「なら良いけど」


「ただ、イタチごっこが虚しいなとは思う」

「じゃあ、奴隷冒険者の供給を止めたら」

「良い考えね。心配しないで、みんなでやるから。手始めに奴隷冒険者がなぜ自分がそうなったのかを聞き取るわ。その失敗談をギルドの資料室にでも置いてもらう。元奴隷冒険者に駆け出しの教育を頼むように手紙を書くわ」

「クランを作ったらどうかな? 元奴隷冒険者クラン」

「良いかも」


 失敗談の執筆も私がやるのじゃなくて奴隷冒険者に任せるわ。

 写本作りも、元奴隷冒険者達に任せましょう。


「大変だ! 後を引き継いだ奴らがミスをしやがった! 掘ったら鉱石じゃなくて大量の水が出た!」

「助けなきゃ」

「マニーマインさん、何とかならない」


 助ける義理はないけど、目の前で死なれるのも目覚めが悪い。


「任せて! 誰か水魔法スキルを持ってない?!」

「私、持ってる!」

「じゃあ任せた。みんなは、魔道具に魔力を供給して」


 私は指示を出した。


「おうよ」

「奴隷仲間じゃないが、同じ鉱山で働く仲間だ」

「見棄てたらバチがあたる」

「俺の魔力も使ってくれ」


「始めるよ! 【水魔法】、魔力をじゃんじゃん頂戴」


 水魔法使いが、水を操作し始めた。

 坑道から水が溢れて、人間も一緒に排出された。


 大変!

 息をしてない。


「みんな分かっているわよね」

「おう、溺れた時の対処は知っている」


 奴隷冒険者は人工呼吸し始めた。

 水場が現場になることは冒険者ならあることだから、こういう時の対処の仕方も知っている。


 私も魔道具に魔力を供給。

 何時間かして、水は止まった。


 坑道を行って水が出た場所に行ってみた。

 岩盤を壊して水脈に当たったのね。


「【土魔法】」


 岩盤を元通りにしておいた。

 危険察知系のスキル持ちもいたわね。

 次の現場では彼に魔力を供給して、危険個所の割り出しをしてもらおう。

 こういうノウハウを本に纏めたいわね。

 奴隷冒険者の誰かにやってもらいましょう。


「ありがとう」


 助けられた人達がお礼に来た。


「良いってことよ。鉱夫仲間だからな」

「宴会するぞ」


 宴会をしてくれるらしい。


「いつぶりの酒だ」

「じゃんじゃん飲んでくれ」

「飲むぞ。仕事達成祝いだ」

「俺は解放祝いだ」


 奴隷冒険者は久しぶりの酒で、満足気だった。


 そして、気がついた。

 私ってなんて狭量なの。

 奴隷冒険者の仲間さえ助ければ良いと思ってた。


 こういう人まで救わないとならないとしたら、眩暈がしそう。

 でも、今の私は昔の私じゃない。

 みんなでやれば良いのよ。

 私だけが背負う必要はないわ。


「あの、現場監督さん、水を排出した魔道具を欲しくない」

「欲しいな」

「シナグル工房で売っているわ。ただし対価として真心がこもった品か、国宝並みのお金を要求されるけど」

「それは良い事を聞いた。真心なら負けない。俺達は真っ当な商売でやっているんだ」


 後は、シナグルに任せましょう。

 きっと彼がいい様にしてくれるわ。


 私は元奴隷冒険者クランを作るべく、手紙を書き始めた。

 別れる時に、居場所と、名前を聞いといて正解だったわね。

 前に遺言を書き留めてくれと言われた時から、常にメモは用意している。


 あの時は大変だったなぁ。

 救護所の病人がみんな遺言を言ってくるんだもの。

 いま考えてみたら、私が全部覚えるんじゃなくて、たくさんの人数で覚えればよかったのね。

 みんなでやるということは、力ね。

 思ってた力じゃないけど、全てを救うという傲慢な考えをぶち破れる力だと思う。

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魔道具は歌う~パーティ追放の数年後、SSSランクになった俺を幼馴染は信じてくれなくて、振られた。SSSランクだと気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~ 喰寝丸太 @455834

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