第158話 みんなの力

Side:マニーマイン

 愚痴を聞いて貰いたい気分になったので、リーンを探す。

 リーンは鉱石の袋を担いで、狭い坑道を歩いていた。


「はい!」

「はい!」


 ハイタッチして挨拶する。


「交代よ」


 私はリーンが担いでた鉱石の袋を代わりに担いだ。


「頼んだわ。相棒!」


 リーンは私が奴隷冒険者だった頃からの友達。

 まだ、リーンは奴隷冒険者だけど、身分の差など気にしないで付き合っている。


「聞いてよ!」

「はいはい。何?」

「みんなを助けたいんだけどアイデアが出なくって」


 事情を説明した。


「うーん、マニーマインは神様にでもなるつもり。いいえ、神様だって全員を救おうだなんて傲慢なことは考えないわ」

「救おうと思うことが間違いなの? 奴隷冒険者のリーンからそんな言葉が出ると思わなかった」

「マニーマイン、今のままだときっとあなたは押し潰される」

「私が?」

「ええ」


 たしかに全員を救おうという考えは間違っているかも。

 でも。

 こんなことで気に病んじゃ駄目ってこと?

 私は傲慢なの。


 力がないからいけないの。

 傲慢が許されるほどの力がないから。


 頭を冷やすべきなのかな。


「交代任務終了」

「ありがと、休めて元気が出た」

「気をつけてね」

「ええ」


 リーンと別れ、坑道を行って、採掘現場まで到達した。


 みんな汗だくになって、鉱石を掘り出している。

 製氷の魔道具で、氷が作られ塩果実水に入れられる。

 奴隷冒険者達は時たまそれを上手そうに飲んだ。


 採掘された鉱石が入った袋を運搬役の奴隷冒険者が担ぐ。

 袋を担いだ女奴隷冒険者がふらついた。


「おっと、ふらついているな。少し俺に鉱石を分けろ。運んでやる」


 そう言って、女奴隷冒険者の袋が減らされて、驚いたことに全員で分け合った。

 私が奴隷冒険者だった頃はもっとギスギスしてたのに、変わるものね。


 休憩時間になったので話を聞く。


「ふらついた子の袋を軽くしたのはどうして? 自分の得にならないでしょう」

「仲間は助ける。あんた達が言い始めたことだ」

「そう」


 私達の活動も無駄じゃないのね。

 今まで、私達のパーティはそう言って、奴隷冒険者を助けてきた。


「助ければ、いつか自分に返ってくるかも知れないしな」

「ええそうね」

「それに一人でできることは少ない。みんなでやらないと」


 みんなでやる。

 ああ、私に欠けていたのはこれね。

 自分だけの力でみんなを救おうとしてた。

 これじゃリーンに傲慢と言われても仕方ない。


 きっかけは私が作ったこともあるけど、いつだってみんなでやってきたじゃない。

 そうよ、みんなでやるの。


 何となく考えがまとまった。

 困難に、みんなの力を結集するの。


 そういう魔道具を作って貰えば良い。

 困難はその時々で違う。

 今回は落盤だったけど、湧き水が溢れて水没することもある。

 この鉱山ではまだないけど、毒ガスの時もある。

 そう、そういう困難にみんなで立ち向かうの。


 みんなでということは、できる人ができることをする。

 出来ない人はサポートに回る。

 そんな魔道具が欲しい。


 あと少し。

 喉まで出掛かっている。


 できる人がやるってことは、落盤の時は土魔法みたいなスキルを持っている人がやる。

 魔力は無限じゃないから、それをみんなで補うのよ。

 みんなの魔力を分けて貰える魔道具。

 それが、私の理想の魔道具よ。


 さあ、奴隷冒険者が持っている銅貨を集めないと。


「困難な時にみんなの力が集まったら良いと思わない!」

「まあな。モンスターの凄いのとか出て来たら、そうできたら良いよな」

「だよな」

「私もそう思う」

「私も」

「俺も」


 みんな考えることは一緒。


「その魔道具をみんなが褒美で得た銅貨で買って来る」

「いいぜ。乗った。いい加減、穴掘りには飽き飽きした。あんたのその魔道具が正しけりゃ。採掘なんか一瞬だよな」


 計算では採掘も一瞬になるはず。


「楽できるのなら嫌はない」

「あんたを信用しているぜ。治療の魔道具は助かっている」

「おう、氷の魔道具もな」


 金は集まった。


 さあ、扉を出しましょう。

 魔力を分けて貰える魔道具が欲しいと強く念じた。


 扉が現れる。

 いつもより扉が大きく見えた。

 扉を開けて潜る。


「青空教室に、興味があるって聞いたけど」


 シナグル工房にはマギナがいた。


「いらっしゃい。考えはまとまったか」

「マギナ、ありがと。そのうち青空教室にはお邪魔するわ。シナグル、まとまったわ。私が作って貰いたい魔道具は、みんなから魔力を分けて貰える魔道具。魔力が無限に近く使えれば、ほとんどの困難に立ち向かえる。もし、それでもだめならみんなでやったのだから後悔はないわ」

「良い顔してるな。よし、ラーラー♪ララー♪ラーラーラ♪ララ♪ラーララーラ♪、ラー♪ララーラ♪ララー♪ラーラ♪ラララ♪ラララーラ♪ラ♪ララーラ♪と、これで良いだろう」


 できた核石は溜石と導線と共に、木彫りの神像に付けられた。

 さあ、採掘を一瞬で終わらすわよ。

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