これが僕の幸せだから

月影澪央

第1話 洋館

 都市部に近いある場所に、一つの学校があった。高等部しかない学校だが、その学校の敷地は一つの街と変わらないほどの広さで、中には教育施設の他に、教員と生徒全員の居住地と必要な物が全て揃うショッピングモールなどがある。娯楽施設ももちろんある。


 こんな学校が、普通の学校なはずはない。色々な意味で。



  ◇  ◇  ◇



 そんな学校に、今日は新入生が入ってくる日だ。厳密には、住む場所を探すだけの日だ。


 この都市には住むところがかなり沢山あって、新入生はそこから住む場所を選ぶことになっている。


「まあまずは内見してみましょうか」


 そう言われて、新入生の裕愛ゆうまは言われるがままに、住居の担当者に連れられてとある屋敷に向かった。


 その屋敷はどこかの貴族が住んでいそうな洋館だった。学生が住むような場所ではなさそうだが、こういうところに住んでみたいという夢がないとは言えない。家賃に関しては学費に入っているものなので、どこに住んでも同じなら夢を見てもいいかもしれないと裕愛は思っていた。


「じゃあ早速入りましょうか」


 担当者が先陣を切り、屋敷の扉を開けた。


「……うわぁ」


 扉を開けるといきなり天井の高い広間が広がり、裕愛は思わずそう声を漏らした。


「先生、最後の一人です」

「おっ、来たか」

「えっ?」


 担当者が広間の奥に声をかけると、誰もいないと思っていた屋敷内から返答があって裕愛は驚いた。


 その後すぐに奥からその声の主とみられる男が姿を現した。


「ありがと。もう行っていいよ」


 その男はそうちょっと感じの悪い感じで住宅の担当者を帰らせて、裕愛を屋敷の奥の部屋に案内した。裕愛は戸惑っていたが、他に選ぶ道もなかったので仕方なくついていった。


 そして奥の部屋に入ると、そこには他に四人の生徒ががいた。


 その部屋は最初の広間とは違って、簡単に言えばリビングルームのような部屋になっていた。なのでソファや机がいくつか置かれていて、くつろげるようになっていた。


「さあ座って」


 そう促され、裕愛は一番扉に近いソファに座った。


「さて、騙してしまって申し訳ない。本当のことを言うと、君たちが住む場所は学校側から決められているんだ」

「じゃあ、ここにいる五人でここに暮らすってこと?」

「そういうこと」


 一人の男子生徒の質問に男はそう答えた。


「もうわかっていると思うけど、この学校は普通の学校じゃないよ。君たちが何を思ってここを決めたかは知らないけど、この学校のカリキュラムは一味違う。この学校では様々なゲームによって校内での上下関係や成績の約半分が決まる。そして、そのゲームは五人一組で行われる。つまり、この五人はチームってこと。今日から三年間、時間を共有する仲間になる」


 男は一気にそう説明した。詳しくはわからない部分も多いが、それは後々わかるものだろうと誰も問い詰めなかった。


 裕愛も、正直学校は親が勝手に決めてきたもので、希望する学校も無かったので言われるがままに決めたまで。なのでどうなろうが何とも思わなかった。


「そういえば、あなたは誰なの?」


 唯一出た質問が、白髪の少女から出たその質問だった。


「ああ、言ってなかったっけ。僕はつかさ。このチームの担当教師ってところかな」


 確かに最初に『先生』と呼ばれていた。


「何でそんなふわふわしてるの? 教師だと言い切れない理由でも?」

「それは僕の性格のせいだけど……確かに学業面での授業はしないからなぁ……」

「ゲーム専門ってこと?」

「そういうこと」


 白髪の少女は「ふーん」と呟いて、頬に手を当てた。


「じゃあ、みんなも自己紹介するか。それとも、僕が勝手にやる?」


 そう言って司は五人のことを順番に見た。


 だが誰も何も言わない。全員最初だから緊張しているのか、様子を見ているのか、自分でやらなくていい選択肢があるからなのか、自己紹介を放棄しつつあった。


「わかった。僕が勝手に言うよ? 僕に任せて後悔しないでね?」


 司はそう忠告して、手に持っていたタブレットを覗いた。そこに全員の情報が書かれているのだろう。


「えっと、まずこっちから」


 そう言って司は祐愛の方を指す。


「祐愛。真面目でいい子。偉王いお、人気者の王子様。風優希ふゆき、姉が人気インフルエンサー」

「何でそんなアニメの人物紹介みたいな感じなんですか……」


 そう呟いたのは偉王だった。最初に質問をしたのも偉王だ。


「僕に任せて後悔するなって言っただろ?」

「そうですけど……」


 だがその説明でもどういう人なのかはわからなくもない。風優希はわからないが。


「あとは、真白ましろ、珍しい白髪の家系のお嬢様。笑里えみり、記憶喪失の五歳児」

「五歳児じゃないもん!」


 笑里がそう反論する。


「じゃあ何だ? 十歳児か?」

「うぅ……もぉ……」


 頬をぷくーっと膨らませて唸るように笑里はそう言い、ついでに舌を出してべーっと司を威嚇した。


「まあ、そんな五人でこれから頑張って行こう」


 司が締めくくるようにそう言って、五人は戸惑い混じりの弱々しい感じで「おー」と返した。



 その日はその後学校での手続きをした後、五人は適性検査と呼ばれるテストをした。


 よくわからない機械をつけられて、ぼーっと何が見えるかを言わされる感じだった。眼科でやる風船を眺めるあれに近いものだ。


 これで何を調べているのかわからないが、とりあえず全員合格はしたようだった。

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