第2話 座敷童でも、座敷童じゃなくても、妖怪好きは妖怪が好きなので問題はない。

「そのクマ、宝物なら、大事に持っとけ」


 俺がそう言うと、モモは不満そうな顔をした。


「えー? でもぉ、おうちにすむのに、おかねがいるっていってたよ」


「誰が?」


「テレビのひと。おおやさんにおかねをはらうんだっ!」


「……そうか。この家に、大家はいないぞ」


「ほえ?」


「ここはな、俺のばあちゃんの家なんだ。じいちゃんも住んでるけど。いつもはな、じいちゃんとばあちゃんがこの家に住んでるんだ」


「――あっ! ネコちゃんがいってたっ! どんなひとたちかなーって、たのしみにしてたのっ! それでねっ、おそとからね、ごあいさつしたらね、うごくけはいがあって、このへやのあかりがついたの。トウマくんみて、わかいなっておもって。おおやさんかなっておもって、おはなししようっておもったの。ねえ、トウマくんはどうしてこのいえにいるの?」


「……今は学校が冬休みなんだ。ここは母親の実家だから、母親と一緒に来てる」


「おかあさんといっしょにきたんだねっ! なかよしだねっ!」


「……悪くはないけど。えっと、モモが何なのか、俺にはよく分からないんだけど……」


「わからない?」


 モモがふしぎそうな表情で、小首をかしげる。


「ああ。幽霊なのか、妖怪なのか、何なのか……」


「ザシキワラシってよばれてるよ」


「座敷童?」


 モモはコクンとうなずき、笑う。


「アタシがいるとね、うれしいことや、たのしいことが、たくさんおこるんだって。みんなね、よろこんでくれてたの。アタシがいてうれしいって、しあわせだって……。いてくれるだけでいいって……。でも……」


 モモは泣きそうな顔になり、話を続ける。


「もうね、アタシのことがみえるひとはいなくなって……。アタシのこえもきこえないみたいで。オモチャとかね、おかしをくれるひともいないし。アタシのためによういされていたへやにあったオモチャとか……こんなのジャマだっていわれて……すてられちゃったの」


「…………」


「アタシのことがみえなくても、こえがとどかなくても、ここにいるよってわかってほしくて、モノをうごかしたらね、キミガワルイっていわれたの。ちいさなこにね、こわいってなかれたり、おとなのひとにおこられたりもした。あとね、ホンモノの、ザシキワラシなら、もっとおかねもちになってるはずって、そういわれて……かなしかった」


「……そうか、それは悲しいな。大切にしてくれていた人がいなくなって、さびしかったんだな」


 ずっと大切にされていた存在なら、大切にされないことがショックだろうし、孤独だろう。


「……うん。アタシね、にんげんがすきなの。にんげんがいるおうちがすきなの。まえにいたおうちはね、たくさんの、あいされてきたおもいでがあるの。だから、いえをでるのがいやだった。でも、カラスさんにね、このままここにいても、オマエはしあわせになれないっていわれたんだ。そういわれてショックだった。つらかった。でも、カラスさんは、アタシのしあわせをねがってくれたの。ここをでて、しあわせになれといってくれたの。それとね、アタシのこと、ザシキワラシだっていってくれた。だからね、アタシはザシキワラシなの」


「……そうか」


「いっぱい、ないたし、なやんだけど……いえをでるって、じぶんできめて、でてきたの。ほかのぬいぐるみはね、すてられちゃったんだけど、このこだけはまもったんだ。むかし、だいすきだったひとがくれたモノだから……」


「そうか」


「あのね、アタシね、にんげんのおうちで、たのしくしあわせにくらしたいなって、そうおもってて……」


「ばあちゃんが人外――妖怪とか好きだからさ、ばあちゃんに聞いてほしいんだ。ここに住んでいいかって。ばあちゃんなら、モモに会えただけで喜ぶと思うし、モモがここに住みたいなら、好きにしたらいいって言うと思うぞ」


「ほんとう?」


 モモがウルウルとした大きな瞳で見上げてくる。


「ああ。ばあちゃんは……って、母さんもだが。妖怪が好きなんだ。座敷童にも会いたいって言ってたし。クマのぬいぐるみはいらないって言うだろうけど……。じゃあ、行くか」


「いく?」


 きょとんとした表情のモモに向かって、俺は笑いかけた。


「家が見たいんだろ? 一緒に行ってやる。ついでに、ばあちゃんたちに紹介するから」


 夜だけど。

 まあ、なんとかなるだろうと思いながら告げると、モモはニパッと笑った。


「ありがとうっ!」


 俺は、モモを連れて部屋を出て、家の中を見せながら、ばあちゃんと母さんがいる仏間に向かった。


 すると、モモの無邪気な声で起きたばあちゃんと母さんが小走りでやってきて、夜中のお茶会が始まったのだった。


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【KAC2024②】冬の夜。ばあちゃん家に、クマのぬいぐるみを両手で抱えた着物姿の座敷童(幼女)が来て、大家と間違えられたんだが、俺は大家じゃない。 桜庭ミオ @sakuranoiro

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