住宅の内見

脳幹 まこと

住宅の内見


 Eさんは独身貴族であった。

 自分に見合った住宅はないものかと不動産屋に立ち寄った。


 一通りの事情を確認した不動産屋はどこかに電話をかけた後、ポンと手を打って、是非とも紹介したいと言い出した。


「では早速、ウチ見に行きましょうか」


 内見ないけんのことを「ウチ見」と言う人は初めてだとEさんは思った。



 紹介された住宅は立派な屋敷であった。


「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」


 Eさんは不動産屋にうながされるまま、屋敷を回った。


 うん、申し分ない。これぞ我が伴侶にふさわしい。


「「いいなあ」」


 彼は周囲を見渡した。


 今、自分の声に別の声が重なった。不動産屋のものとも違う。


 廊下に出てみると、そこには一匹のすっぽんがいた。


 池にいたのが迷い込んだのだろう、と思って更に前に進む。


 曲がり角の先には、一匹のウナギがくねっていた。


 不動産屋の名前を呼んでみるが応答はなかった。


 流石に様子がおかしいと思ったEさんは、玄関に引き返そうとした。


 しかし、段ボールにつまずいて転んでしまった。


 さっきまで、そんなものはまったくなかったのに。


 段ボールには「濃縮マカ錠剤ボトル12個セット」と書いてある。


 青ざめた。


 気付くと、廊下にいたはずが部屋にいる。


 テレビが突然ついた。ベッドシーンだった。あえぎ声が聞こえてくる。


 電源を落としても声は消えない。先程の声と同じような気がした。


 Eさんは必死に叩いたり蹴ったりしたが、ビクともしない。


 障子・・なのに。


 しばらく暴れ回って疲れてしまった彼は、その場にへたり込んで上をあおぎ見た。


 絶句した。


 天井が明らかに低くなっている。


 いや、部屋全体が少しずつ、縮んでいるような……


「これからいっぱい楽しもうね」


 叫び声を上げた彼の手には、赤まむしが握られていた。



 三日後。

 不動産屋は電話をかけていた。


「今度の男はどうだ」


「こりゃいいよ、活きが良い」


「それはよかった」


「ゆっくり味わっていたいから、しばらく売約済にしておいて」


「もちろんだよ、うちみ君・・・・

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