5話 守ってあげる
「私は、今、どこにいるの? あ、自分の部屋だった。なんで、浮いているの?」
コテージの事件から3ヶ月ぐらい経った頃、私は、自分の部屋で、宙に浮いていることに違和感を感じた。そう、さっき、会社から帰ってきて、ドアに鍵を入れたんだけど、その後の記憶がない。
ただ、少しづつ記憶が戻ってきた。
ドアに鍵を入れた時だった、後ろに人の気配を感じた。鍵をドアに入れたまま振り返ると、いきなりお腹に激痛が走り、その場で倒れ込んでしまった。
力を出して、人影の方を見ると、総務部の備品係の女性が、血がべったりついた包丁を手に持って震えていた。
「あなたは、この世の中にいない方がいいのよ。私は、あなたと出会ったことが、本当に不幸だった。これで、私の人生は幸せになるわ。」
「人を殺したら、幸せになれないでしょ。馬鹿なの? 早く救急車呼んでよ。」
「あなたは死ななきゃいけないのよ。救急車を呼ぶぐらいなら、こんなことしない。早く死になさいよ。」
だんだん周りが見えなくなっていき、意識が遠のいていった。そして、玄関前の廊下は血でいっぱいとなった。
それから隣人が警察に通報し、廊下に呆然と立ちつくす総務部の女性は警察に連行されていった。あの刑事が、私を見ながら言った。
「また、あなたか。警察は、犯人を捕まえられるけど、死んだらしょうがないだろう。最大の防御は、恨まれないことだって言ったじゃないか。なんで分からないのかな。まあ、もう遅いけど。」
私の心臓は止まり、その体は、ブルーシートをかけられ運ばれていった。ただ、私は、部屋の中で浮いていた。
「そうだ、私、刺されたんだ。やめて、私の部屋に入らないで。どうして、気づいてくれないの?」
部屋に入ってくる警察の人達を止めようとしたけど、私の声や手は、入ってくる人達に届かなかった。
そのマンションの前の道で、赤坂であった占い師の老婆がつぶやいた。
「だから、受難の相が出てるって言ったじゃないか。罰当たりなこと言わずに、私の占いを聞いていたら、あと5年の人生をプレゼントしたのに勿体無い。これだから今時の若者はダメなんじゃよ。」
そう言って、暗い住宅地に老婆は消えていった。
私は、また、誰かに乗り移り、現世に戻れるのだろうか? いえ、無理だと思う。だって、前回とは違って、私の体はなくなり、誰かに追い出されたんじゃないから。
1年後に試してみるけど、今度は上手くいかないような気がした。
ところで、私が住んでたこの部屋は、部屋の中で殺人があったわけじゃないので、すぐに次の借り手が住み始めた。
そして、私は、総務部の子に切り付けられた後、ずっと、新たに住み始めた彼と一緒に暮らしている。彼は気づいていないと思うけど、私は、そんなこと気にしない。
とっても、素敵な彼なの。紳士で、いつも、心穏やかに誰にでも優しく接している。料理も得意で、私と子供ができたら、素敵なイクメンになってくれると思う。
私、決めたわ。この人と付き合う。私も、顔には自信もあるし、性格もいいし、彼にとっても、良いと思う。彼も、とっても機嫌がいい。私がいるからだよね。
こんな素敵な彼だから、いろいろな女がハエのように寄ってくる。先日、ある女が付き合ってと言ってきたから、階段から突き飛ばしてやった。
彼はずっと私のもの。私が守ってあげる。
迷子 一宮 沙耶 @saya_love
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます