3LDK日当たり良好、角部屋、座敷童つき

赤夜燈

オプション:座敷童

 初めてその部屋に入ったとき、俺は悲鳴を上げそうになった。


 クローゼットの隙間から、おかっぱ頭に赤い着物を着た少女が二人、こちらを覗いていたからである。


 おそるおそる不動産屋にそのことを伝えると、不動産屋は真っ青になり、家賃が半分になった。


 岩手出身の俺には、彼女らがなんなのか見当がついていた。


 座敷童ざしきわらし、である。


 家に居ると家が栄える、しかし去ってしまったら衰退すると言われる子供の姿をした妖怪だ。

 多分そうだろう、としか思えないが、俺は彼女らを丁重に扱うことにした。なにしろ同居人(?)なのだ。仲良くするにこしたことはないだろう。


 

 せっかくだからと俺はその部屋で暮らしはじめた。


 

「ご飯できたぞー」


 ててて、と少女たちがテーブルに寄ってくる。大学時代に始めた自炊だったが、人に食べさせられるかは自信がない。


 少なめに盛った俺と同じおかずを気に入ったらしく、少女たちは皿を空にした。妖怪って、ご飯食べられるんだなあ。


 休日には、テレビで配信のアニメを観る。もちろん彼女らもソファに座っている。


「次、なにが観たい?」


 二人は「呪術廻戦」の二期を指差した。妖怪だし、興味があるんだろう。


「よし、ただしもう遅いから4話だけな? 続きは明日観よう」


 少女たちの顔が明るくなった。アニメは面白かったし、少女たちも楽しそうだった。


 俺たちは別々に風呂に入り、別の布団で寝る。妖怪であろうと布団がないのは辛かろう、少女だし男の俺と寝るのは嫌だろう、と小さい布団を用意した。


 少し不思議で楽しい日々は、こうして過ぎていった。


 二人が手紙を遺していなくなったのは、一年ほど後のことである。



『わたしたちはざしきわらしではありません。

 わたしたちは、このへやの まえに住んでいた 子どもでした。

 おとうさんは わたしたちに このかっこうをさせて ひどいことをしました。

 おかあさんは それをどうがにして お金にしていました。



 わたしたちは しにました。だから ころしました。


 へやに入ってくるひとで こわくなかったのは あなたがはじめてでした。


 だから、あなたはつれていきません。いつか、またあいにきます。


 ありがとう』


 手紙を読んで、俺は泣いた。


 少女たちと暮らすのが、何物にも代えがたい幸せだったと気づいてしまった。

 彼女らは自分たちが座敷童ではないと言ったけれど、家が栄えるよりなにより、少女たちとの日々が幸せだった。

 俺にとって、彼女たちは座敷童だった。去っていかれるのが、こんなにも辛かった。


 不動産屋に問い詰めると、ありえないほどに凄惨な事件の全貌が露わになった。


 思わず吐いた。不動産屋は更に家賃を下げてきた。俺は泣きながらそれを承諾した。


 月日は流れ、俺はまだその部屋に住んでいる。結婚もした。


 妻の中には、双子の女の子が宿っているという。


「あ、お腹蹴った」


「もうすぐだなぁ。なにか食べたいものあるか?」


 俺は彼女たちが会いにくるのを、心待ちにしている。


 幕

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