事故物件のみをご紹介しています

月井 忠

一話完結

 あまり表立っては言えないが、私は事故物件専門の商売をしている。

 以前は、事故物件に一定期間住み込むアルバイトがあるという都市伝説もあったが、そういった類の話ではない。


 簡単に言えば需要があるのだ。


 事故物件であると相場より安く住むことができる。

 財布の事情から、そういった物件を探す者もいるのだ。


 中には、そういった物件に住みたいという好奇心からやってくる者もいる。

 怖いもの見たさということか。


 今回の客はどちらでもない。


「本当にこの家賃で良いんだろうな?」

「はい。もちろんです」


 男は再び家賃を確認すると、部屋を見回した。


「値段の割に、いい部屋だな」

「お気に召していただき、良かったです」


 そう言ってもらわないと私が困る。


「では、こちらでお決めになりますか?」

「ああ」


 やっとこの横柄な男とおさらばできる。


 まあ、おさらばという意味には色々あるのだが……。


 ちなみに、この部屋はこの男のために用意された物だ。

 男には、引っ越しの予定がない頃から営業をかけ、この部屋をしきりに勧めた。


 家賃については、私のポケットマネーからいくらか出して、男の負担を減らすことまでしている。


 そうまでしないといけない理由があった。


 私は事故物件専門の商売をしている。

 商売相手は何も、生きている人間だけではない。


 こんなことをしているからか、いつからか霊感が強くなったようだ。


 つまり、事故物件で良く見るようになった。


 中には今回のように、指定の人物を部屋に住まわせるようにと言ってくる者もいる。

 大概は断っているが、脅されれば仕方がない。


 命あっての物種だ。


 私は部屋のドアを閉め、男と一緒に車に乗ると事務所まで戻る。


 助手席の男は早晩、原因不明の死を遂げるだろう。

 いつもそうだったから、そう予言できる。


 深くは聞いていないが、部屋で自殺した女性はこの男に恨みがあるのだろう。


 未練とは恐ろしいものだ。


 私は事故物件専門の商売をしている。

 こんなことはよくあることだ。

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