後編

 あれから半年が経った。私たちは一か八かで事故物件的クソジジイ大家物件に入居した。


 大家さんは、土日は朝の八時から電動工具で作業していてうるさいし、私たちの洗濯物をかき分けて通路を通って裏庭に行く。


「おーおーおー。蟹田さん! この間はビールどうもねー! お出掛けかい? お出かけ前にお前らも飲んでかねーか!?」


 大家さんが共用部分でビールを飲みながら電動工具で何かを作っている。ちなみに、今は朝の九時だ。


「お気遣いありがとうございます。出掛けるからビールは遠慮しておきますね」


 大家さんは、思い切って懐に入ってしまえば何てことない人だった。アパート経営の他に株も転がしているらしいし、値上げのあれこれをするのが面倒で格安のままにしてあるというのもあるらしい。


「おらあああ! くそばばあ! 俺のアパートのゴミ捨て場にゴミ捨ててんじゃねぇ!!」


 隣近所の一軒家の人が、アパートのゴミ捨て場にゴミを置きに来るたびに大家さんはけたたましい怒鳴り声を上げる。って、ここって行政が決めたゴミ出し場なんじゃないの? それともアパート専用なの?


 良く分からないけど、この変な大家さんもひっくるめて五万五千円ならこの物件はお手頃だ。


 大家さんがいつも騒音でうるさくしてくれるおかげで、私たちのフニュフニュの声もかき消されているようで一石二鳥だ。だからか、励んでしまって半年後には家族が増える。


 格安物件って、やっぱり何か裏があるんだけど、私たちのこの物件の場合はお得な物件だったのかしら? 遊びに来る友達は、「大家さんが洗濯物をかき分けて歩いて通るとかありえない」って言ってドン引きしていたけど、どうせ私の下着は室内に干すし、正樹さんの下着と洋服をかき分けて行かれる分にはどうでもいいのよね。


 それより何より、今はこの子が産まれるのが楽しみだ。大家さんの騒音がうるさいから、赤ちゃんが泣いているくらいどうって事無いと思ってもらえるだろう。


「じゃ、大家さん、出掛けてきますね」

「おうっ! 行って来い!」


 大家さんはこのアパートの警備員みたいなもので。この間は玄関に防犯カメラを設置していた。


 セキュリティー◎。設備◎。騒音出しても◎。住み心地◎。家賃◎。


 思い切ってこの物件に住んでみて本当に良かった。事故物件レベルのクソジジイ大家だけど、私たちにとっては福の神、みたいなものね!



────了

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大家さん『が』事故物件 無雲律人 @moonlit_fables

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