ドアを開けたら 【KAC20242】
にわ冬莉
美濃部
「そしてこちらが……トイレです」
ニコニコしながらそう言うのは、今日の内見を担当してくれることになった
背中には大きなリュックを背負い、スーツでありながら、足元はトレッキングシューズ。
「はぁ」
私は溜息交じりに生返事をし、一応、トイレを確認する。
「二見様、お疲れでしょうか?」
美濃部が心配そうに私を見つめる。
実際、疲れていないと言ったら嘘になる。内見は三件目だったが、まさかこんなことに巻き込まれるなんて思ってもいなかったのだから。
「では、お隣のお部屋ですが……、」
美濃部がドアノブに手をかけた。
「こちら、」
カチャ、と開けて中を確認すると、私を振り返り、笑顔で言った。
「バスルームとなっております!」
「窓は!?」
私は美濃部を押し退け、バスルームを覗き込む。が、風を通す程度の小さな窓があるだけである。
「チッ」
思わず舌打ちをしてしまう。
「では次に参りましょう」
どうしてこんな状況であるにも拘らず、この男は平常心なのか……。
「次のお部屋は……、子供部屋ですね。壁紙が青空仕様になってますので、開放感を楽しんでいただけます!」
もう、三十分近くこれを繰り返しているのだ。
「二見様、再度申し上げます。私のせいで、申し訳ありません」
シュン、としょげ返る美濃部。
私はそんな彼を見て、力なく言った。
「いえ、私も悪いんです。あなたの話を信じなかったんですから」
「でも、そう簡単に信じられる話でもありませんよね、私が迷子体質だ、なんて。あは」
可愛く照れる美濃部を、冷ややかな顔で見つめる。
アパートの内見。
不動産屋にいた美濃部は言った。
『私でよければご案内は出来ますが、私どうやら異次元迷子体質なので、多少お時間いただいちゃうかもしれません』
ハッキリ言って、意味がわからなかった。
「では次のドアを……あ、またトイレです!」
「これで十五個目ですね」
頼むからそろそろ玄関のドアを開けてくれないか、美濃部!
ドアを開けたら 【KAC20242】 にわ冬莉 @niwa-touri
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