宇宙住宅お貸しします
水乃 素直
宇宙住宅お貸しします
ここはとある銀河にある、星一つぐらいの大きさの不動産屋さんです。
エリックはここに勤める従業員で、日夜いろんなお客様に住宅の提供をしています。
今日もいろんなお客さんが来ます。
リバラッチ星人のお客様です。ビックバンの後にかなり増えました。季節ですね。
まずは、リバラッチ星人に入念なヒヤリングをします。大体3つくらい候補を挙げて、目的の物件まで案内します。
エリックとリバラッチ星人会社で支給されるタイムマシンのレバーを動かすと、静かにマシンが空中に浮き上がり、滑るように光速で動き出しました。
「銀河系は跨いでもいいですか?」
「うーん、まぁ、時空歪まない? あんまり過去旅行好きじゃないのよ」
「かしこまりました。圏内でお調べしますね」
そうしてやってきたのは、P50887惑星です。
星の寿命、土地面積、元素構成……エリックの澱みの無い説明をうんうんとうなづくリバラッチ星人。リバラッチ星人は、惑星の中で、宙に浮いたり、地面に潜ったりしていました。
時代も変われば内見も方法も変わります。
エリックは言いました。
「ただ、ここただ窒素が多めかな…と」
「窒素?」
「別に規制にも社内基準にも問題はないのですが、気になる方がいらっしゃるのも事実でして」
「そうかー、ちょっと空気悪いのかなー?」
「えぇえぇ」
「うーん、辞めよかなぁ」
星人は致死性のガスを吐きながら、部屋を後にしました。
次に向かうは、15光年先の惑星ピータンです。腐った卵のような見た目からその名がつけられました。
「いかがですか?」
惑星はとても悪臭で、エリックはガスマスクをつけても結構キツいのでした。
肝心の顧客は、恒星の輝きを見ながら、触手を広げて、なんとやく家電の長さを想像して、新生活に想いを馳せていました。
「うん、悪くないね。日当たりはどんな感じ?」
「260時間周期で最高250度、最低-300度です。平均日照時間は120時間ですね」
「まぁまぁ日当たりいいね」
「ただ、問題点は、巨大な質量が近いので、ブラックホールが出来るとここ避難区域になっちゃうんですよね」
「あー、そういうことか、確かに安いもんね」
「それと、ちなみにピータンは、質量が薄いことと、構成する原子の問題から、平均的な惑星よりも空気が液体ぎみです。視界は悪くなるので、ちょっと不人気なんですよね」
「なるほどね、まぁ俺は気体的な住居でもいいかな〜。でも一旦保留にしたい。住みやすいんだけど、安過ぎるし」
「かしこまりました。安心してください。ごゆっくり検討頂ければいいので」
最後に向かうのは、銀河系の果ての衛星ドリームヶ丘星です。衛星は1日の周期が短く、40時間程度であるため、住居人の合う合わないの差が激しいです。
「いかがですか…?」
「あれ、この鉄クズとクレーターは?」
リバラッチ星人が表面を見て気づきました。
「あー……」
エリックは言い訳もできず、正直に話しました。
「これは先の星間戦争の名残ですね。5億年前のやつですね」
「あー、あんまり手入れされてないんだ」
「教科書には載ってない戦争ですからね」
「でも、エネルギー資源の闘争だよね? またダークマターの軍団が襲ったりしてこない?」
「治安は一応セキュリティ入れるので、まずまずですね」
「いやー、維持費かかるよね」
「それはそうですね」
エリックも話を綺麗にすることはしますが、嘘をつきませんでした。嘘をついては信用を失うと上司から教わったのです。
「管理人さんがあんまり干渉してこないので。こちらとしては都合が良いんですが……」
「いやー、リフォームから手つける余裕無いなぁ」
そうして、三つともしっくりこないようで、決まらないまま、帰ることになりました。
銀河系を渡って戻るところに、リバラッチ星人が声をかけました。
「あ、あそこはどう?」
エリックは運転しながら言いました。
「あ、あそこですか?」
「そうそう」
そこは見たところ青と緑で構成された惑星でした。
「そこですか……確かに一人暮らしにはいい大きさですね」
「日照時間は」
「1日が24時間で、だいたい12時間は晴れます。最高50℃で最低50℃ですね
「お、結構安定してていいね、住みたいね」
「結構酸素が多いですけど」
「窒素があればなんとかなるでしょ」
さっきと言ってることが違う気もしますが、新しい部屋を探す人の好みなんて、いくらでも変わるものです。
エリックはここは推すポイントだと考えました。
「管理は我が社なので、住むならもちろん手配いたします」
「いいね」
「繋留場から50光年かかりますけど」
「ちょっと遠いね」
「あと、恒星の太陽が近いんですよね」
「でも涼しいほうじゃないか?」
「それは酸素のおかげですね」
「住みやすそうだね」
「そうですね」
「いいね」
リバラッチ星人は乗り気でした。
エリックは手元のタブレットを見て、一つだけ忠告しました。
「ただ一つ問題が……」
「問題……?」
致死性のガスを吐きながら、こちらを見つめるリバラッチ星人に対して、エリックは言いました。
「先住民の人間の駆除に3週間かかりますねぇ」
宇宙住宅お貸しします 水乃 素直 @shinkulock
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