内見に行ったらベヒーモスがいた
清水らくは
内見に行ったらベヒーモスがいた
「あっ、あれえ?」
部屋に入るなり、不動産屋の丸中さんが首をかしげている。初めての土地で、夢をかなえる。その第一歩は家を探すことだった。先輩の知り合いが社長という不動産屋を紹介してもらい、さっそく案内してもらったのだが。
「住人がいるじゃないですか」
「そんなはずはないんですが」
「でもいますよ、ベヒーモス」
大きな体、カバのような体、短くてとがった角。
「最近は見なかったんですけどねえ」
「え、前はいたんですか」
「まあ、はい。出て行ってほしいんですが、人間の法律は適用されなくて。自然にいなくなるのを待っていました」
「じゃあこれは、新しいベヒーモス?」
「はい、初見のベヒーモスです」
まいった。ベヒーモスがただで住んでいる家に当たってしまった。人外だと思って好き勝手しやがって。
「追い出すことはできないんですか」
「ベヒーモスは気まぐれで強くてですねえ。以前傭兵に頼んでも無理でした」
「じゃあこの物件はなしですね」
「半額でも?」
「……半額?」
頭の中で目まぐるしく計算がされる。半額になったら、東京では破格の金額だ。ベヒーモスはただ部屋の真ん中にいるだけで、家具などは持ち込んでいない。僕が暮らすスペースは確保できそうだ。ルームシェアと考えれば、いい条件なんじゃないか?
「どうでしょう?」
「ベヒーモスにも聞いてみないとな。……ベヒーモスさん、君はここを不法占拠している状態だ。僕が一緒に住むことになっても文句は言えないと思うけど、どうだろう?」
ベヒーモスは体を起こすと、腕組みをした。そして、なぜかほほを赤らめた。
「ごめんなさい、居たらいけないところって知らなかったの。それに私、男の人と一緒に住むなんて考えたことがなくて……。ねえ、ちょっと考えさせてくれる?」
そう言うとごつい手を頬に当てて、唇を尖らせた。
「なんかかわいい……けど、一緒にいたらいけないことが起こりそうな気がする」
次の内見先に向かうことになった。
内見に行ったらベヒーモスがいた 清水らくは @shimizurakuha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
日記を書いてみたい人の日記/清水らくは
★54 エッセイ・ノンフィクション 連載中 219話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます