【KAC1】あと三分で食べきらないといけない

達見ゆう

知られざる戦い

 私には三分以内にやらなければいけないことがあった。

 ミニカップ麺にお湯を注ぎ、出来上がるまでにこのビッグ鮭おにぎりを食べきることである。


 よくあるランチの光景だが、やはり麺は出来立てが食べたい。そういう自分のこだわりというか、意地があった。早食いは身体によくない、そんなのは分かりきっている。それでもやり通さなければならない理由もあるが、今は割愛する。


 素早くおにぎりの包装を解き、一口目をかぶりつく。


 しまった、中身の鮭にまだたどり着いていない。急いで咀嚼して飲み込み、二口目にかぶりつく。

 よし、鮭に当たった。今度は急いでいる中でも鮭を味わうという難易度の高い技でおにぎりの美味しさを堪能する。タイマーは五十秒を指している。順調な方だ。

 そして一分半を過ぎておにぎりの真ん中まで食べていた時、アクシデントは起きた。おにぎりが崩れそうになったのだ。このままではかけらとして落下して拾って食べるにしてもゴミにするとしても時間をロスする。


 素早く空いている左手で崩れそうな部分を支え、事なきを得る。なんせカップ麺ができるまでという縛りだ。些細なことでも命取りになる。


 命取りなんて大げさと言われるかもしれないが、そこはこだわりとだけ言っておこう。説明する時間よりおにぎりを食べきりたい。


 そうして順調に食べきり、お茶を飲み、包装紙を不透明なゴミ袋に入れた時。タイマーが鳴り、カップ麺ができると同時にノックがした。


「お疲れさまです。あら、また鈴木さんはミニカップ麺にサラダ? ダメよぉ、少なすぎると午後は保たないわよ」


「いえ、これで大丈夫です」


 私はニッコリと遅番の人に声をかける。


「本当にしっかり食べないとダメよ」


 私は少食で通してるのだ。おにぎりを食べているのはバレてはいけない。


「大丈夫です、足りていますから」


 よし、今日もバレずに済んだ。午後も頑張ろうっと。


 そうして出来上がったカップ麺をすすりつつ、サラダを食べるのであった。

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