バッファロー・リヴェンジェンス
天見ひつじ
バッファロー・リヴェンジェンス
おれたちは。
おれたちはそこにいた。
そこにいたのだ。
大地を揺らがし、草を食んでいた。
泥に転げ回って遊び、木陰に休んでいた。
捕食者の牙をかわし、愛のため雄々しく闘った。
おまえたち。そう、おまえたちだ。
おれたちがいたように、おまえたちもいたな。
洞窟に身を寄せ、焚き火の側で身を震わせていただろう。
おまえたちはおれたちを殺したな。
叫び、追い立て、枝の牙を投げ、血を流した。
怨みはすまい。病み衰え、脚の力を失えば喰われるのは当然だ。
おまえたちはさしたる脅威ではなかった。
おれたちが軽く小突いただけでおまえたちは死ぬ。
肉を喰らう獣どもの中でもとりわけ非力なのがおまえたちだ。
いや。言い直そう。
肉を喰らう獣どもの中でもとりわけ非力なのがおまえたちだった。
火を噴く棒を手にしたおまえたちは、おれたちを殺しまくった。
殺すのはいい。
だが、なぜなのだ。
なぜ、おまえたちはああも殺した。
腹を満たすためでもない。おまえたちは肉を打ち捨てた。
骨や皮を使うでもない。おまえたちは剥ごうとすらしなかった。
食い物を奪い合ったわけでもない。もとよりおまえたちは草を食まない。
殺すために殺した。
そう捉えよう。どうだ。不服はあるか。
文句があるなら言うがいい、同胞すら殺すおまえたちよ。
おれたちは数を減らした。
ずいぶんと減らした。
それでもなお。
おれたちはここにいる。
湾曲した双角は折れてはいない。
踏み鳴らす四脚は萎えることを知らない。
おれを。
おれたちを。
こう呼ぶがいい。
全てを破壊しながら突き進むバッファローと。
おれたちは、そうだ。
破壊して、破壊して、破壊して――
破壊の限りを尽くすと、そう決めたのだ。
閃光を発する棒を構え、迂闊に寄ってきた観光客を、
おれたちは破壊した。
おまえたちが身勝手に定めた境界、その象徴たるゲートを、
おれたちは破壊した。
地平の先まで続くトウモロコシ畑、かつて草木豊かな平原だった地を、
おれたちは破壊した。
おれたちのいた地から、おまえたちのいる場所へと続く道を、
おれたちは破壊した。
おれたちは破壊するのだ。
おれたちより遅いものを。
おれたちより軽いものを。
バイクを追い抜き、車を吹き飛ばし、列車の横腹を貫き通し、
おれたちは破壊した。
おまえたちの工場と発電所を、おまえたちの住まう都市を、
おれたちは破壊した。
撃ちかけられた銃弾と砲弾を、浴びせかけられた毒と音を、
おれたちは破壊した。
気付いただろう。
そうだ、目を背けるな。
おれたちは全てを破壊すると、そう言った。
おまえたちの築いた防壁を、海の向こうへ逃れるための避難船を、
おれたちは破壊した。
聖堂に集まり一心に祈りを捧げるおまえたちを、その信仰を、
おれたちは破壊した。
おれたちをどうにかしようという一切の試みを、気高き勇気と理性を、
おれたちは破壊した。
聞こえてきたか。
そうだ、耳を塞ぐな。
おれたちは全てを破壊すると、そう言った。
ロスの地を蹴り、ロッキーの山頂を踏み切り、ローマに降り立ち、
おれたちは破壊した。
空を見上げ、そこにいるおまえたちとて例外なく、
おれたちは破壊した。
地を砕き、海を割り、星を転げ回り、
おれたちは破壊した。
感じているか。
そうだ、震えを隠すな。
おれたちは全てを破壊すると、そう言った。
全てを――
全てを――
全てを破壊しながらバッファローは突き進むのだ。
バッファロー・リヴェンジェンス 天見ひつじ @izutis
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