番外編

シロとクロ(#毎日文学2025.0517「歌」より)

 歌が聞こえる。それは大きな歓喜だ。笑みを湛えた誰も彼もが、その四肢に生命を漲らせている。数多の光が喉を震わせ、私の、彼の耳朶を打つ。それは春の陽だまりであり、初夏に吹く柔い風にも似ている。強張った体をふっと溶かしてくれるような、そんな心地好い歌が聞こえる。/『シロ』



 歌が聞こえる。それは小さな悲鳴だ。閃光が生む影に目を遣る者は無い。灯りが手放した暗がりで、誰にも届かぬ膿を抱えて、ひとり祈るように踞っている。真冬の寒風が通り過ぎるのを、ただ静かに待っている。雲間から射す陽光を乞うような、そんな哀しい歌が聞こえる。/『クロ』

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祈りの千花 翡翠 @Hisui__

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