寿限無、寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリ

寿限無、寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリ

　寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助には三分以内にやらなければならないことがあった。

（くそっ……なんでこんなときに限ってこんな初歩的なミスをしてしまったんだおれは！）

　すなわち、受験での名前記入である。

　これが普通の人間なら別に大したことでもない。精々が佐衛門（さえもん）三郎（さぶろう）何某（なにがし）程度なのだが、如何せん寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助はいちいちこんな長ったらしい名前を書き込まなければならなかった。

　これが普通の試験であれば短縮したって教師はわかってくれる。むしろ長ったらしいのだから短縮せいなどと言ってくれるのだが、ここは受験の場。

　かの鎌倉武士が己が武功を上げるべく滔々と自らを奮い立たせるように勝鬨をあげたように、寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助もその本名を書き入れる必要があった。

　それもこれも受験戦争が悪いのである。こんな初歩的なところを見逃すくらいまでに寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助を緊張させたのが悪いのだ。

　きっとパブロ・ピカソも同じことを思ったに違いない。絵のことしか知らないけど。テキトーに書いただろうゲルニカとかのことを思いながら寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助は遠い目をした。

　そんなことする暇があったら早く名前を書けばいいのにね。寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助だなんて長い名前をしてるのだから、たとえほんのひとときでも時間は惜しいんだろうし。

　というのも、寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助は正直諦めていた。

　名前を記入する欄が小さすぎるのである。

　寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助なんていうどうして全部つなげちゃったのかとなりそうな名前は、精々が十文字くらいしか想定されていないスペースには入らないのだ。

　おそらく寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助といった名前は想定されていないのである。

　米粒にびっしりと名前を書くくらいのつもりでないとこれは書き切ることは不可能と、そう断じてもいいくらいのスペースしかなかった。

　うん。もう、欄から出ちゃおう。きっと試験官サマもこんな名前なら理解してくれるさ。寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助はもういっそのこと枠をはみ出して解答用紙の裏まで突っ切るようにして己の名前――寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助を書いた。

　もう普通の大きさで書き始めた名前を消す方が時間的に怪しかったのである。

　★☆★☆★

　なお、後日面接官として現れた出島勤務の幕府お抱えの役人、今は寿限無（じゅげむ）、寿限無（じゅげむ）、五劫（ごこう）のすりきれ、海砂利（かいじゃり）水魚（すいぎょ）の、水行末（すいぎょうまつ）・雲来末（うんらいまつ）・風来末（ふうらいまつ）、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命（ちょうきゅうめい）の長助の目指す学舎の講師をして暮らしているBrfxxccxxmnpcccclllmmnprxvclmnckssqlbb11116《アルビン》は、その名前を見るやいなや即合格を決めたという。