応えてばかりの委員長
栗尾りお
応えてばかりの委員長
私には三分以内にやらなければならないことがあった。
日直から代わりに日誌を取りに行くよう頼まれた。先生から課題を集めるよう頼まれた。その課題を見せてとクラスメイトに頼まれた。
委員長として期待に応えないと。
あと三分で予鈴が鳴る。頼まれ事の前にまずは教室に行かなければ。今ならまだ間に合うはずだ。
頭では分かっている。
駐輪場で困り顔で停める場所を探す生徒。朝練を終え、少し乱れた姿で校舎へ走る生徒。その隣を談笑しながら歩く生徒。
静かだった朝の空気が時間と共に崩れていく。そこに彼の姿はない。
突如、木陰に風が吹き込む。ショートヘアにしたせいで、風がいつもより冷たい。
マフラーを巻き直し、彼が通るのを待った。
頼られるのは嫌いじゃない。
特別な才能がなくとも、頑張るだけで必要とされる。初めは、そんな邪心だった。
次第に増える頼み事。終いには勝手に委員長に推薦されるまでになった。
利用されているのは分かっていた。押し付けられているのは分かっていた。
でも期待してくれているなら。
そんな半端な優しさが私を苦しめた。
ある日のことだった。
いつものように雑用をする私。そんな放課後の教室に彼は現れた。
クラスの中心人物である彼。「いつも委員長には雑用やってもらってるから」そう言いながら雑用を手伝い始めた。
クラスの人気者とクラスの雑用係。放課後の教室。二人だけの秘密の時間。
もちろん毎日ではない。彼は友達が多いから来れない日の方が多かった。だからこそ、扉が開くたびに期待をする。
期待しては傷ついて、期待しては傷ついて。もういいと諦めかけた日に限って彼は現れる。
そんな半端な優しさが私を苦しめた。
冷たい風が髪を揺らす。衝動的に切った髪は意外と整っている。
古典的かもしれない。知らないかもしれない。それでも誰かが流した噂で彼が意識してくれたなら――
私の変化を最初に見て欲しい。他の誰でもないあなたに。
予鈴が響く中、私は彼を待ち続けた。
応えてばかりの委員長 栗尾りお @kuriorio
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