【KAC2024お題作品】割り箸もらい忘れタイムアタック

カユウ

第1話

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 大学の一限が終わり、たまたま立ち寄った購買。什器の奥にポツンと1つだけ残されたカップ麺。これは、某人気 YouTuber がメーカーと共同開発したカップ麺だ。ファン、そして転売ヤーどもに買い占められ、わずか3日で店頭から跡形もなくなったというどんな人も喉から手がでるほどほしい一品。再販されるという話は知っていたが、まさか購買で買えるとは思わなかった。


 そんな希少価値がうなぎ上りなカップ麺を買うことができた俺は、購買の隣の建物にあるカフェテリアでお湯を入れた。スマホのタイマーを三分にセットし、俺は確保したイスへと戻る。あと三分待つだけで、このカップ麺を食べることができる。浮かれた気持ちでカップ麺をテーブルに置き、ビニール袋を漁った俺は、すぐに意気消沈することになる。ビニール袋の中に入れた手が、お目当てのものを見つけられない。


「え、嘘だろ……」


 ビニール袋の中の商品をすべて出しても、見つからない。床に落としてしまったかとテーブルやイスの下を見ても、見つからない。


「やらかした。割り箸ない」


 一気に気持ちが下がってしまった俺。しかし、ここはカフェテリアだ。食事をする場所なので、箸やスプーン、フォークが置いてある。あまり褒められた行為ではないが、カフェテリアの箸を借りよう。そう思った俺だったが、すぐに自分の記憶力の無さに天を仰いでしまう。


「あ、今日は休みなんだった……」


 だから、購買でカップ麺を買ったんだった。不具合のあった調理設備の入れ替えということで、今週いっぱいカフェテリアの営業はなし。カップ麺や冷蔵食品、冷凍食品のため、お湯と電子レンジだけは使うことができる状態。


 そんなことをしている間に、スマホのタイマーは刻一刻とカウントダウンが進んでいく。ここまでで、すでに三十秒経ってしまった。多少時間が経っても、味はそこまで変わらないだろう。しかし、カップ麺の希少価値を考えると、きちんと三分後には食べ始めたい。


 スマホを持ち、財布をズボンのポケットにねじ込んだ俺は、早足でカフェテリアの出口に向かう。購買に割り箸をもらいに行くしかない。


 時間は二限が始まった頃だったが、大学構内を歩いている学生はそこそこいる。ぶつからないよう注意しつつ、前を歩く学生を抜いていく。一瞬、エレベーターに乗ろうかと思ったが、タイミングが悪く、すぐには乗ることができない。仕方なく、俺は普段使わない階段で一階まで降りることにした。


 慌てて階段を下りているが、足を滑らせたら大変だ。今の自分にできる最大限の速度で下りていく。


 一階に降りたところでスマホに視線を向けると、ちょうど残り二分を切ったところ。急げば間に合いそうだ。しかし、購買の入り口は建物の反対側だ。小走りで行こう。


「建物の配置、やっぱおかしいって」


 小声で悪態をつきながら、足は止めない。行きの階段は下りだったが、帰りは上るのだ。いいタイミングでエレベーターがくるといいが、期待はできない。


 なんとか購買に辿り着いた俺は、入り口に一番近いレジにいる店員さんに声をかける。


「すんません、割り箸もらいます!」


 店員さんはチラッとこちらを見ると、軽く頷いてくれた。感謝の言葉を口にしつつ、レジの横から割り箸を一膳抜き取る。すぐさま踵を返し、購買を後にした。この間、約十秒。


「やべっ、あと一分ちょい!?」


 スマホのタイマーが示す残り時間は、一分三十秒を切っている。行きよりも速く走り、カフェテリアのある建物へ。エレベーターを見たが、すぐには来ない。諦めて階段を上る。


「はぁ、はぁ……う、運動不足が……」


 最初は一段飛ばしで上っていたが、二階にたどり着くころには息が上がってしまった。大学に入って二年。ほとんど運動という運動をしていない我が身が悲鳴をあげる。


 一段ずつ上り、あとは半階分の階段を上ってカフェテリアに入るだけ。だが、残り時間は三十秒もない。


「つ、らい……はぁ、はぁ」


 なんとか三階まで上り切った。止めたくなる足を動かし、行きよりは遅い速度でカフェテリアの中に入る。入り口から遠めの席を確保した自分が恨めしい。


 そして、スマホのタイマーがアラーム音を鳴らす。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 残り一秒で、俺が確保した席まで戻ることができた。息も絶え絶えになりながら、カップ麺のフタをはがす。勝った。俺は勝ったんだ。勝利の余韻に浸りながら、俺は手をあわせる。


「……いただきます」

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