<KAC2024お題作品>バルス!

口羽龍

バルス!

 裕太(ゆうた)には3分以内にやらなければならないことがあった。それは、Xで「バルス!」とツイートする事だ。バルスとは天空の城ラピュタのエンディングでパズーとシータが叫ぶセリフで、金曜ロードショーで放送されるたびに、バルスの瞬間にツイートする。かつて、そのツイートが1秒あたりにおけるツイート数の世界一になった事があり、注目されている。裕太もそれを狙っていた。ムスカが「3分間待ってやる!」と言ってからが勝負だと、裕太は思っていた。


 だが、直前になって尿意がした。どうにかバルスの時まで持ってくれと思っているが、大丈夫だろうか? すでに物語は終盤で、シータとムスカが玉座の跡にやって来た所だ。ムスカがシータを銃で撃とうとした時に、パズーがやってくるという。


「さぁ、いよいよクライマックスだ」


 パズーがやって来た。いよいよムスカがあれを言うんだろうか? その間にトイレを済ませて、ツイートする準備をしよう。裕太はじっとテレビを見て、その時を待っていた。


「3分間待ってやる!」


 やっと、そのセリフが聞けた。そのタイミングを狙ってトイレに行こう。


「ちょっとトイレに行ってこよう。絶対にバルスをツイートするんだ」


 裕太は大急ぎでトイレに向かった。裕太は走っていた。何が何でもバルスとツイートするんだ。かつて作った世界一の更新に貢献するんだ。


 裕太はトイレに入り、用を済ませた。そして、手を洗う。これも早めに済ませないと。裕太はすぐに手を洗って、戻ってきた。


 裕太は再びテレビを見始めた。


「戻った戻った、ってあれ?」


 だが、ラピュタが崩壊している。パズーとシータが滅びの言葉を使ったようだ。それを見て、裕太は呆然とした。まさか、こんな事になるとは。3分と言っていたのに、話が違うじゃないか? 早かったから、バルスとツイートできなかったじゃないか。


「ツイートできなかった・・・」


 裕太はじっとテレビを見ていた。だんだん崩壊していくラピュタを見て、バルスとツイートできなかった無念がこみあげてくる。そして、涙が出そうだ。


「あぁー、目がぁー、目がぁー」


 そのムスカのセリフと共に、裕太は涙を流しそうになった。まるで、ムスカと自分がシンクロしているかのように、手の動きが一緒だ。


「3分じゃないじゃん!」


 そして、ラピュタの崩壊が止まり、ラピュタがさらに空高く上がっていく。そして、パズーとシータが目を覚ます。裕太はテレビをじっと見ている。だが、あの場面はもう戻ってこない。


「やっぱ、トイレはあらかじめ済ませておくべきだったな。トホホ・・・」


 裕太は、エンディングの「君をのせて」を悲しそうな表情で見ている。こんなに悲しい表情でエンディングを見た事はない。まさか、こんな事になるとは。やっぱり、見る前にトイレを済ませて、しっかりと準備をしておけばよかったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

<KAC2024お題作品>バルス! 口羽龍 @ryo_kuchiba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ