皆さんは、カミングアウトされてますか?(黒歴史放出祭に参加しています)

@Teturo

第1話 皆さんはカミングアウトされてますか?


 お祭りが盛り上がっていますね。何人かのお話を拝見して、僕も身悶えしまくりです。みなさん、結構な黒歴史をお持ちなんですね。そこで僕もお祭りに参加させて頂こうと思い、お邪魔いたします。


 カクヨムに参加されている皆さんは、お話を書いている事を家族や知人にカミングアウトされていますか? ヨミ専の方以外は、多かれ少なかれお話を書かれ、SNSに投稿されている事と思います。当然ですが僕も、その一人です。

 カクヨムに参加して、知り合いになって頂いた方も増えました。毎日が凄く楽しいです。が、僕は何か書いているのを、家族にもカミングアウトしていませんでした。


 えぇ、ちょっと前までは。


 僕の黒歴史を語る為に必要となりますので、少し自己紹介させて頂きます。僕は学校を出てから、中小の食品会社に就職しました。重度の人見知りでありコミュ障でしたので、工場勤務を希望しました。が、まぁ、パチンコ玉のように様々な部署に飛ばされ、現在に至ります。

 その間に運良く結婚する事も出来、二人の子供も授かりました。一生独身のモブキャラである筈でしたのに、ラッキーな事です。神様って本当にいるんですね。


 お話は二人の子供の内、長男君の勉強についてです。自慢ではありませんが、僕は勉強できません。どの位できないかというと、伊集院光さんと同じ高校出身(!)なくらいできません。

 これもある意味、黒歴史です。高校時代も黒歴史の連続ですが、これはまたの機会に報告させて頂きます。

 

 先輩! 僕、頑張ってますよ!


 僕の黒い遺伝子を立派に引継いだ長男君。勉強はできませんが、身体だけは頑丈な青年に生長しました。その彼も高校三年生になって、進学か就職かを考える時期になります。僕も進路では相当親に迷惑をかけてしまっているので、彼に何か偉そうに言う訳には行きません。

 それでも彼なりに考え、医療系の専門職に就くため、専門学校へ進むと告げられました。素晴らしい事です。僕の時とは大違い(高校卒業しても何をしたいか、まるで分かりませんでしたから)でしたので、大賛成し学費も心配しないように話しました。


 すると彼の学校推薦で、公立の専門学校を受ける為、学費も心配する事は無いと言うではありませんか。しかもその学校は、頑張れば自転車で通える程、自宅の近くにあるのでした。それなら中古で良ければ車でも買ってあげるよ、何て気楽な話をしていたのです。

 親の懐事情まで考慮してくれるとは、なんと感心な青年でしょう。合格発表までニコニコしながら過ごす僕たち。



 でも、落ちちゃいました……



「学校推薦で専門学校受けて、落ちる人っているの?」

「……ここにいる」

「試験って何があったんだっけ?」

「小論文と面接。小論文は学校の先生に添削して貰ってた」

「じゃ、何で落ちるのさ!」


 慌てた僕はそれまでノータッチだった、彼の小論文を見せて貰います。僕は農学部出身でしたので、医療系とは畑違いですが、中身の無いペラッペラの小論文である事は分かりました。

「これじゃダメでしょう!」

 学校の先生を追求するのは後回しです。パソコンに飛び付き、小論文の傾向と対策を行いました。設問について表面的な事では無く、自分ならどうするかという回答ができるようになる練習から始めます。


 彼も必死でしょうが、僕も必死です。何しろ、受かるものだと思って、滑り止めなど用意もしていなかったというのですから。嫁がこれから受けられる専門学校をピックアップしている間に、彼とマンツーマンで対策作業を進めました。


 どの位、必死に勉強をしたかというとですね。その頃、僕は毎晩浴びる程、お酒を呑んでヘラヘラしていました。しかし対策作業をしていた十日間は、お酒を一滴も呑まなかった程です。

 まぁ、家に居ても昼行燈な僕が、偉そうに勉強なんか教えられません。ですから形だけでも本気であると、身を持って示してみたのでした。


 その間、自宅で面接の練習もしました。彼には学生服を着て貰い、僕はスーツを着て髪の毛まで整えての対応です。

「家でそんな事して、練習になる訳ないじゃん」

「……こういうのは形が大切なの!」

 リビングのドアをノックする所から、面接練習を始めました。馬鹿馬鹿しいですが、食卓の椅子に座るまでの御約束の動きも指導します。不満たらたらな様子で座る彼。

「では、わが校への志望動機を教えてください」

「わ、私は……」


 馬鹿にしていた面接練習でもカミカミです。勉強できない所の他に、彼が極度の緊張しいだという事も分かりました。本当に僕の子供なんだなと、実感できた瞬間です。


 これから受験できる学校も見つかりました。大急ぎで高校に連絡し願書を提出、具体的な準備段階に入ります。小論文は、お題二~三問から選択するタイプでした。その回答を三十分で原稿用紙三枚以内に、まとめる形式となります。

 初めは白いざら紙に書いていたのですが、雰囲気が出ないとクレームが入りました。それもそうかと自室を掻き回すと、山のような原稿用紙が発掘されます。


 そうなんです。


 僕はコミュ障なので友達が少なく、馬鹿みたいに本ばかり読んでいる学生でした。ですから中学生にもなると、懸賞小説などを手書きで無数に書いていたんですよね。一度も引っかかった事などありませんが。

 今とは違い、コンピュータで投稿などありませんでしたから、コツコツと原稿用紙に書いていましたよ。そんな事していたなんて、誰にも言った事ないんですけどね。


「ほら、これを使いな」

「何で、こんなに原稿用紙を持っているの?」

「……学校の授業で使ってたの! このお題で、今から三十分ね。はい、スタート」

 自室では無くリビングで、硬い椅子に座っての小論文対策です。緊張しいの僕などは、少し違った環境に居るだけでストレスになるので、これも練習の一つと考えていました。


 僕が帰宅してから夜寝るまでの三時間くらいを、長男君と過ごす日々が続きます。考えてみたら、彼とこんなに同じことをしているのって、初めてかもしれません。

 その後、僕は寝るのですが、彼は自室で練習を続けるとの事でした。かなりの数の原稿用紙が右から左に消えて行きます。そんなある朝の事でした。


「お父さん、コレ……」


 長男君は原稿用紙の束を、僕に差し出してきました。結構な枚数です。初日は一枚埋めるのにもヒィヒィ言っていたのですから、大した進歩です。

「凄いねぇ。相当頑張ったんだねぇ」

「……イヤ、そうじゃなくて」

 何だか彼は恥ずかしそうな表情を浮かべています。こんなに、はにかむ彼を初めて見たかもしれません。

 何気なく原稿用紙の束を受け取って、パラパラと捲り僕は凍り付きました。


「……見た?」

「うん。割と面白かったよ」


 そこには僕が高校生の頃に書いていた、懸賞小説の下書きがバッチリと残っていたのでした。そんな筈は無いのに! 紙ベースのお話は、クローゼットの奥の秘密のダンボールに全て封印している筈なのに! 何で新品の原稿用紙の束に、僕の黒歴史が紛れ込んでいるのですか!

 彼に見られたお話ですか? ……随分ブラッシュアップして、カクヨムにも上げてます。


 https://kakuyomu.jp/works/16817330654718515427


 ……中二病バリバリの現代ファンタジー物でした。(ステマではありませんので、確認して頂かなくて結構です)


 僕は早朝にも関わらず、大声を上げて原稿用紙を自室に仕舞い込みました。余りの騒音に、他の家人も起きてしまった程です。

「何よ、お父さん。うるさいわね」

「……死にたい」

「ちょっと、どうしたの! 顔色がおかしいわよ」


 余程、僕は切羽詰まっていたのでしょう。本気で心配し始めた妻に仕方なく、これまでの経緯を説明しました。話し終わった瞬間、彼女は僕を指差して大爆笑していましたが。

 自分の息子に偉そうに指導しておいて、この結末です。暫く長男君と目を合わせられなかったのは、今となっては良い思いでしょうか?


 その後、彼は無事、滑り止めの学校に合格しました。三年制の学校を自力で四年制とし(落第したので)、社会人として頑張っています。少しはあの時の頑張りが、役に立っていれば良いのですが。


 あの。


 ……お小遣いあげますから、あの時のお話、忘れてくれませんかねぇ?




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