いろはと弥太郎
いおにあ
いろはと弥太郎
招き猫の
それは、爆弾の解除。ついさっきお店の席で発見された時限爆弾。
「ったく、なんでたかが招き猫の俺が、こんなことをしなけりゃならないんだよ・・・・・・」
ぶつくさと文句を垂れながら、その小さな手で、爆弾の配線を慎重に扱う弥太郎。そんな彼の頭上から、申し訳なさそうな声が降ってくる。
「ごめんね~、弥太郎。ぼくがふがいないばっかりに・・・・・・」
「・・・・・・別に構わんが」
ぶっきらぼうに返す弥太郎。
弥太郎に話しかけたのは、この店――喫茶店ハットキャットという――のオーナー、いろはさんだ。まだ少年といってもいいような若々しい面立ちをしているが、実は三十に近い年齢だ。
喫茶店ハットキャット――元々はいろはさんの親戚が経営していたのだが、ひょんなことから二年前にいろはさんが店の切り盛りを任せられることになった。
招き猫の
最初は、いろはさんも弥太郎のことを気味悪く思っていた。それはそうだろう。たかがお店の飾り物に過ぎない招き猫が、いきなり動き出し、喋り始めたら、誰しもそういう反応をする。
だが紆余曲折の末、いろはさんは弥太郎を店に置くことにしておいた。その理由は色々あるが、簡単に説明すれば弥太郎はなにかと便利な存在だったからだ。ちょっと席を外していても、店番をしっかりとやってくれる。それに、お客さんもけっこうな人数、呼び寄せてくれる。招き猫だから、当然かもしれないが。
「ふう・・・・・・やっと終わったぜ」
複雑怪奇な構造をものともせず、弥太郎は見事、爆弾を解除してみせた。
「弥太郎ありがと~」
いろはさんは、弥太郎の小さな身体を抱き上げ、スリスリと頬ずりをする。
「ったく、よせやい・・・・・・」
いろはさんからの抱擁から逃れようとするも、弥太郎の小ささではいかんともし難い。
「まったく、どうして俺はこんなことをしてるんだか・・・・・・いろは、ちゃんと警察には連絡しとけよ」
「了解ー」
いろはさんはスマホを取り出すと、早速警察に連絡を入れる。
そんな彼の姿を見ながら、弥太郎はひとり呟く。
「ったく、俺は便利屋じゃねえんだよ。とはいっても、他に行く当てなんてねえしなあ・・・・・・それにいろはの奴、ああ見えて結構商売上手っていうか・・・・・・やれやれ。こんな自由自在に動いて喋る招き猫の俺が、いったい何者なのか、いつか判明する日はくるのかねえ・・・・・・」
「おーい、弥太郎。ちょっと来てくれー」
「はいはい」
弥太郎はピョコピョコとはねるように歩き、いろはさんのところへと向かう。
意思を持つ招き猫・弥太郎と、その持ち主・いろは。ふたりは今日も、喫茶店ではたらく。
いろはと弥太郎 いおにあ @hantarei
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