にゃんこの、おやつ豪遊

kou

にゃんこの、おやつ豪遊

 猫には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは引っ張り出した、猫用おやつを隠すことだ。

 猫の聴力は人間の3倍以上。

 だから飼い主の運転する車の音を聞き分けることなどは、お手の物だ。

 猫は飼い主が出かけると、いつも猫用おやつ《ちゅ~ぶ》を引っ張り出す。

 120本入の超豪華パックなので、少々食べてもバレないのだ。

 かつお味、まぐろ味、ほたて味、ささみ味、チーズ味……。

 猫は、ひとつずつ出して袋の口を切り、匂いをかいだ後、中身を一気に平らげる。

 極めつけは、一度に2本を口に入れて絞り取る。

 2つの味が混じり合い、旨みを増すのだ。

「うまいにゃ~」

 猫は満足し、うたた寝をしていた。

 すると飼い主のエンジン音を耳にしたのだ。

「にゃに!? こんなに早く帰ってくるなんて」

 猫は飛び起きると、急いで《ちゅ~ぶ》をかき集める。

 リサイクルプラ用のゴミ袋にゴミを入れると共に、見えないように底に隠す。切り口部分も忘れず隠す。

 車のエンジン音が止まる。

「やばい。もう車から降りてくるにゃ」

 猫は素早く猫ベッドに潜り込むと、寝たふりを決め込んだ。

「ただいま」

 飼い主は玄関を開けて家の中に入って行く。

 足音が近づいて来る。

「あら~。いい子にしてるのね」

 飼い主は猫を撫でる。

 猫は薄目をして甘えた声を出す。

「今日は美味しい猫缶を買ってきたわよ」

(にゃんと)

 猫は驚いて起き上がる。

 そこで飼い主は、足元に猫用おやつの切り口が落ちていることに気づいた。

「あら。何かしら」

 飼い主は、切り口を拾い上げる。何であるか思い当たる。

 猫は泡を食って固まる。

「ん? まさか……」

 飼い主は、ずいと猫に顔を近づける。

(や、やばいにゃ……)

 猫は恐怖のあまり固まる。

「ミーコ、おやつ食べたの?」

 猫は心臓がドキドキと高鳴り、目を逸らす。

「にゃ、にゃんにゃん!」

 猫は必死に否定したが、飼い主は四つ角を作って猫の顔を覗き込む。

「口の周りに、ついているわよ」

 飼い主は怒り心頭だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

にゃんこの、おやつ豪遊 kou @ms06fz0080

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ